Long Novel
□Valentine's Day T
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Valentine's Day T
Side 久美
バレンタインデーの日。
私は鴨川ジムの前で、胸を高鳴らせていた。
手には、紙袋を持って。
(幕之内さん…いるのかな)
紙袋の中には、ジムの人達へのバレンタインプレゼントと…。
今日の日の為に、徹夜までして一生懸命編んだ、手編みのマフラーが入っている。
もちろん、マフラーは幕之内さんへのものだ。
(わ、渡すだけだし…何もそんなに緊張することないわよね)
よしっと気合いを入れて、ジムの扉を開けようとしたその瞬間。
ジムの中から、何やら賑やかな声が聞こえてきた。
「これ、皆さんに!
一生懸命作ったので、食べて下さい!」
この明るい女の子の声は、菜々子ちゃんだ。
どうやら先を越されてしまったらしい。
なんだか入り難くて、ドアの前で留まってしまう。
しかし中の声が大きいため、話の内容は私の耳へと届いてきた。
「はいコレ!一歩さんにも」
「わぁ、菜々子ちゃんありがとう!」
「おいおい…一歩のだけ、やけにラッピングが綺麗じゃねぇか?」
「ホントだ。大きさも違うぞ…」
「そりゃそうですよぉ!何たって、本命チョコなんですからー!」
(あ、あの子…!)
まさか、こんなにも簡単に菜々子ちゃんが告白してしまうとは、思ってもいなかった。
焦りで、ドキドキと鼓動が速くなる。
今、幕之内さんはどんな顔をしているのだろう。
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