Long Novel

□V
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Valentine's Day V
Side 間柴





日付もとっくに変わった、ある真夜中。

寒さでふと目が覚めてしまった俺は、水でも飲もうかとベッドから起き上がった。
部屋の襖を開けようと手を掛けたところで、隙間から白い光が漏れている事に気付く。

(久美の奴、まだ起きてやがったのか)

きっと、徹夜でやらなければならない仕事でもあったのだろう。
それほど気にも止めずにゆっくり襖を開け、机の方を見ると。

(…寝てやがる)

久美は、机に突っ伏してすやすやと眠っていた。

今は1月だ。
こんな所で寝ていたら、体が冷えきってしまうだろう。
起こした方がいいな…と思い、近づいて肩をちょいちょいとつつく。

「おい。こんな所で寝てると、風邪引くぞ」

「ん…あ、お兄ちゃん」

久美は寝ぼけ眼で、俺を見上げた。

「早くベッドで寝ろ」

俺はそれだけ言うと、すたすたと台所に水を飲みに行く。

「あ…そっか、寝ちゃってたんだ」

後ろでボソボソと久美の声が聞こえたが、特に気にもせずコップに入れた冷たい水を、ぐいと飲み干した。

「…お休み」

「おぅ」



―――



そして、次の日の夜中。

トイレに行こうとベッドから起き上がると、またリビングの電気が付いていた。
襖を開けると、昨日と同じように久美が机に突っ伏して眠っている。

(こいつ、また)

残業も大概にしろよなと思いつつ、肩を小さく揺すって起こそうとする。

「おい、こんな所で寝てると…」

その時、机の上からぱさりと本が落ちた。
何の気無しに拾い、ちらっとその本の表紙を見てみると。

『誰でも簡単!編み物講座』

(…なんだ?久美の奴、編み物してんのか)

どうやら、仕事では無かったようだ。
久美の方を見ると、突っ伏した体の下から毛糸と棒のようなものがはみ出ている。

コイツに、そんな趣味なんてあっただろうか?
まぁ、女だし編み物の一つや二つ、やってても可笑しくはないか…。

少し不審に思いながらも、本を机の上に置き、すたすたとトイレへと向かう。
トイレ帰りに再び久美の肩を揺すってから、その日はそのままベッドへ向かった。


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