小説と思われるもの(主に長編

□小さい大きな樹の下で V
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第5章 〔それぞれの目的は〕




水平線の下に、太陽が隠れ始めたとき。
大陸から離れ、海にぽっかりと浮かぶ島があった。
島といってもなかなかの大きさで、そのうちの3分の1ほどは山になっている。

北東にあるその山の反対側、平原や海辺を挟み南西には、高い建物が目立つ街があった。
街の一部は海の上にも造られており、そこへ行くための交通手段として、
エレメンタルレールの走る線路が何本か繋がっている。
そのうちの1本の繋がる先には、一際高く聳える建物。
人影はほとんどなかった。
そしてもう1本の繋がる先には――、

瓦礫の山があった。
かつて遊園地だったそこは、ほんの数時間前までの面影などまったくない。
ジェットコースターのレールを支える柱は全て倒れ、
観覧車は分解されたかのようにバラバラに散らかり、
ティーカップは最早原形を留めておらず、たくさんの破片となってその一帯を白く見せている。
ある所は火事でも起こったかのように黒く焦げ、
ある所は何かに切り裂かれたかのようにズタズタになり、
ある所は地割れが起きたかのように地盤が崩れ落ち、海水に浸っていた。


「………」


その様子を、街の入り口から、
たった今この島に降り立ったマナリアたちが、絶句して眺めていた。
瓦礫の山となった遊園地とは対照的に、その他の場所に被害はまったくと言っていいほどない。
その遊園地だけが異空間にあるかのように、変わり果てた姿となっていた。




数時間前。


「私は行くわ」


全員の集まった客室で、リフィルが言った。
リフィル以外の全員の視線が彼女へと向けられる。


「私が行ったところで何かが変わるわけではないけれど、
 それでも、今この世界で何が起こっているのか、自分の目で確かめたいの」

「世界……?」


皆の視線を受けたまま、リフィルはいつも通りの口調で言う。
その言葉の一部に疑問を持ったしいなが、怪訝そうな顔をした。


「そんな気がするのよ。今まで起こった数々の出来事に、何か、繋がりのようなものを感じるわ」

「ボクも、そう感じる。少なくとも、その出来事が単なる偶然の重なりってわけじゃなさそうだし」


リフィルに続くように、ジーニアスが言った。
すっ、とベッドから立ち上がり、今度はふらつかなかった。


「ボクも行くよ」

「あら。無理しなくてもいいのよ?」

「してないよ。もう大丈夫、――って言えば嘘になるけど、平気。
 それにボクも、自分の目で確かめたいから」


そう、とリフィルは短く頷くと、そのまま茫然としているマナリアたちの前を通り過ぎる。
ジーニアスがその後に続いた。
2人は1度扉の前で立ち止まり、


「待ってくれ。俺も行く」


じゃあ行ってくるわ、とリフィルが言う前に、ロイドが口を開いた。


「私も行きます。――マナリアちゃんは……」

「愚問でしょ」


コレットの言葉を遮るようにマナリアは言うと、すたすたと扉まで歩く。
行く気満々だった。
止めても無駄だな、マナリアの父親は、苦笑しながら小さく呟いた。


「まァ、止めやしねェけど。てか、止める理由ないしな」

「どうか、みなさんお気をつけてください」

「幸運を、祈っています」

「何か分かったら、連絡しなよ」


そしてアーヴィング家とセイジ姉弟は、
ワイルダー、もしくは藤林家の言葉に軽く手を振って答えながら、客室から出ていった。
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