小説と思われるもの(主に長編

□小さい大きな樹の下で
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プロローグ




そこは、見渡す限り瓦礫だらけの荒れた土地。
ちょうど太陽が真南の位置にあり、その荒れた大地を静かに照らす。
その中心に、1本の小さな樹が立つ。
まわりに、他の樹は生えていない。
人よりも少し高いくらいのそれは、悠然とそこに立っていた。

その樹から少し離れた場所に、2人の人間がいた。
瓦礫だらけの地面に座り、樹を茫然と眺めている。


「大きくなったね」


2人のうちの1人が、樹に視線を向けたまま言葉を発した。
少女の声だった。


「ああ、そうだな」


その少女の言葉に、同じく樹に視線を向けたままのもう1人が答える。
声変わりの済んだ少年の声だった。


「あの時と同じくらいになるには、あと何年くらいかかるのかな?」

「さァな。少なくとも俺らが生きているうちは絶対にないことは確かだ」

「そだね。わかってるけど、でも、見られなくて少し残念だな……」

「じゃあ、その分“長生きさん達”にたくさん見てもらおうぜ。
 そして、1000年後くらいに感想聞こう。天国で」

「あははっ。それがいいね。でも感想、簡単に予想ついちゃうけど」

「そりゃあ、“あの樹”を見て感じるコトなんて1つだもんな」

「うん。みんな、思うコトは同じだよね。――同じであってほしい……」


少女は樹に向けていた視線を下に移す。
俯いた。
その行動に気付いた少年は、視線を少女へと向ける。
そして、優しく語りかける。


「……大丈夫、この樹がある限り、もうあんなコトは起きない。――いや、俺が起こさせない」

「うん……、頼りにしてるよ?」

「ああ、まかせとけ!」


そして2人で笑い合って、再び樹へと視線を戻す。
暫くの沈黙。


「私、今すっごく幸せ」


その沈黙を先に破ったのは少女だった。
その言葉に、ん? と少年は少女を見る。


「1年前までは考えられなかった。私、今ちゃんと生きてるんだよね」

「そうじゃなかったら、俺は1人で喋ってる怪しい人だぞ。誰も見てないけど」

「あははっ、そうだね。私、やっぱり生きてるんだね。
 こうやって、貴方の隣で、同じ景色を見て」

「そうだな。俺も、おまえの隣で、同じ景色を眺めていたい」


少年の言葉を聞いて、少女はくるり、と嬉しそうに樹から視線を外し、少年を見る。


「ホント? じゃあずっと、隣にいてもいい?」


そして少年も、しっかりと少女の目を見ながら、口を開く。


「ああ、もちろん。それに、1年前のあの時約束しただろ?」

「うん、ありがとう。ずっと、隣にいるからね」

「ああ。遠慮なくどうぞ」


少女は少年に寄り掛かりながらそう言い、少年はそれを受け入れながら言う。



「じゃあ……」

「ん?」


少しの沈黙の後、少年に寄り掛かったまま少女は話し出す。
そこで一旦言葉を句切り、


「誓いの証」


上を向きしっかりと少年の目を見つめ、そして、その目を静かに閉じる。


「え? えっと、ここで?」

「“誰も見てない”よ?」


少し顔を赤らめながら言う少年に、少女は先ほど少年が言った言葉を引用する。


「ちょ、ちょっと待て、心の準備が……」

「うん、待ってる。ずっと」




太陽は真南の位置から、少しずつ西へ傾き始めていた。
瓦礫だらけの大地には、短い影が3つ。
そのうちの隣り合っている2つの影のうち1つが、ゆっくりと動く。
それは、元からほとんど距離のなかった隣の影へとさらに近づいていき、やがて、重なった。
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