雑話

□地獄が天国
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ゴボゴボと音を発てる海水の詰まった水槽。

自分達を閉じ込める故郷を模した水の檻。



水槽を眺めながら俺は思う。
何時まで生きていられるだろうかと。
あの化け物が支配するこの水の檻で何時まで生きていられるのか。
正直昔はこんな風に考えることはなかった。
何故なら自分は広大な海で生きていた蛸だからである。
自然界ではほんの一瞬目を離した隙に喰われて死ぬということがざらだ。
弱者が強者に喰われて世界が廻っていく。一々死に関して考え,死に怯えるなど時間の無駄だ。
それはこの姿になり,あの化け物にこきつかわれる今も一緒だ。
それなのに。


そんな冷めた考えが常だった自分がこんなにも死ぬのが恐ろしいと思うようになったのは何時からだろう。


カツン

「デビ」

聞き慣れた声に振り向けば一角が立っていた。

「い…いっ一角…」

応えるように名を呼べば一角は俺の横に並ぶように立つ。

「こんな所でどうしたのだデビ?」

いつもの笑顔で一角が聞いてくる。
すると自分でもよく分からないが猛烈に一角に触れたくなった。

「いい…一角…」
「デビ?」

名を呼び腕を広げ一角に抱きつく。一角は一瞬驚いたような顔をしたけど直ぐに嬉しそうに俺を抱き締める。

「どうしたのだデビ。君からなんて珍しいな!!」
「べ…別になな…何となくだ…だ」
「そうか!」

一角が笑う。
好きだなと自然に思う。
するとその思いに反応するかのごとく,自分の抱える疑問に対する答えが浮かんできた。


もしかして俺はコイツのことが好きだから,好きになってしまったから死ぬのが恐ろしいと考えるようになってしまったのか?
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