雑話

□こんなに大きくなりました
1ページ/2ページ

穏やかな日曜の午後。
昼飯を食い終わってソファでとろとろとうたた寝していた。
すると。

ぴーんぽーん。


「あ?」


幸せな時間を不粋なチャイムの音で邪魔をされた。


「…誰だよ」


生憎、今家にいるのは俺だけだ。無視してしまおうかとも思ったが、もし何か大事な用件だったらと考えると放っておけなくなり、渋々玄関に向かう。


「へーい、どちらさ…ま」


玄関開けたら二秒で脚立に乗った幼馴染み。
意味が分からない。


「何してんだクソガキ」
「クソガキじゃない。いいか、よく聞け」


このクソガキ、もとい俺ん家の隣に住むサカマタ(9歳)は脚立の上で姿勢を整えると、おもむろに此方を指さし声高に宣言した。


「俺は将来、こんくらいデカくなる!!だから昨日の発言を撤回しろ!!」


そう言われ、記憶を漁れば昨日俺はサカマタの身長を軽くからかった気もする。が、重い脚立を持ち出す程気にしたのか。
その斜め上な根性にやや呆れながら脚立に乗ったサカマタは目算するに全長約3m弱。
しかし、コイツの実際の身長は俺(199p)の腰位までしかない。


「…無理だろ、現実的に考えて」
「無理じゃない!!こんくらいデカくなってお前を超す!!成長期舐めるな!!」
「成長期過信すんな。現実見ろ、そして牛乳に相談だ。てか分かったから降りろよ、アブねーぞ」
「危なくない!!」


軽くあしらおうとする俺の態度が気に食わないのかぎゃんぎゃん騒ぐサカマタにいい加減イライラを通り越して疲れてくる。一刻も早くこのやり取りを終わらせ、再び惰眠を貪りたい俺はいつもの手段に出ることにした。


「そっから降りろ。そして速やかに帰れ、ぶら下がり健康法でも試してろ。何でも一個言うこと聞いてやっから」
「ホントか!?」


駄々をこねるサカマタに譲歩を教える為、俺が昔から使う手『なんか一個言うこと聞いてやるから』だ。これで大体上手くいく。


「何でも良いんだな」
「おー、こいこい」


何でもと言うがコイツの大概のお願いは、一日遊べだのお菓子奢れだの、そんな年相応に子供染みた可愛いものだ。
今回もそんなものだろうと高を括っていると。


「じゃあ、俺がこんくらいデカくなったら結婚しろ!!」
「おっけーおっけー…って、は?」
「約束したからな!!」
「や、ちょっ…おい!?」


そう言い捨てるとサカマタは約束通り脚立から降り、呆然とする俺を置いてさっさと自分の家に帰ってしまう。
その口元は怪しく歪んで見えた気がした。







「今思えば、ありゃ完全に嵌められたよなあ」
「何の話だ?」
「テメーが末恐ろしいガキだったって話だよ」


そう云い、後ろを見上げれば宣言通りに俺を追い越し幼少期など見る影もないほど逞しくなったサカマタが俺を膝に抱えた上に、何が楽しいのか知らないが薄い俺の胸をまさぐりたくっている。
いっちょまえにエロい触り方しやがって。


「生意気だ!!童貞のくせに!!年下のくせに!!」
「あと少しで童貞ではなくなるけどな。それに、初めてはお前とあの頃からずっと決めてた」
「あの頃って、テメー9歳じゃねーか。マセガキってレベルじゃねーぞ!!」
「それだけお前に惚れてるってことだ」
「…そーゆーのは可愛い女の子に言ってやれよ」
「嫌だ、お前が良い」


ポンポン出てくる殺し文句に、俺は絶句するしかない。コイツほんとに年下かよ。


「…こんな子に育てた覚えはない」
「当たり前だ。お前は俺の親じゃなくて嫁だろう」


ほらと、持ち上げられた俺の左手薬指に光る揃いのプラチナリング。今年の俺の誕生日にプロポーズと共に贈られたものだ。
もし、ただプロポーズされただけなら子供の時の戯れ言だろうとか、若気の至りだ止めておけと突っぱねることが出来ただろうが、この為だけに貯金し、それを全て叩いたと云われた指輪、譲歩はできても完璧な我慢が出来なかったコイツの努力の結晶。
そんなものを突きつけられてしまえば、この指輪がいかに重いか理解出来てしまう俺に逃げ場なんて最初からなかったのだ。


「ほんっと…ずりぃわ」
「何か言ったか?」
「いいや?なにも?」
「続けていいか?」
「……好きにしろよ、旦那様」
「喜んで」


GOサインと共に押し倒され、見上げる形になった顔に浮かぶのは欲情しきった獰猛な笑み。
耳元で囁く声は子供特有の高い音をとうに捨て、低く掠れた男のそれで。
小さく頼りなかったはずの手はデカく頼もしく成長し、嬉々として俺の服を着実に剥ぎ取り不埒に這いまわっている。
ああ、それなのに。

俺は全てを委ねる様に腕をサカマタの首にまわし、呟いた。




「……嬉しそうな顔はいくつになっても変わんねぇのなあ」




ドーラク25歳、サカマタ20歳の夏の夜。
所謂、新婚初夜での一幕である。





こんなに大きくなりました
(お前は小さくなったな)






→おまけ&あとがき
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ