文
□一ページ集
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通り雨
強い風だった。
霧雨の降る放課後、
それはそれは強い風だった。
少女が開いた六本針の折り畳み傘は、ひらかれるやいなや風に負けひっくり返ってしまった。
少女は、壊れてしまったのではないかと一瞬悲しげな顔をみせたが、傘が素直にひっくり返っただけだと確認すると、立ち止まった小雨のなかニッコリとわらい、優しく傘をたたむ。
どうやらお気に入りの折り畳み傘らしい。
白い生地に、パステルオレンジの玉模様。
淡い色のそれは、日に照らされた雨粒にも見える。
まだ小雨であるうえに、こんな強風では傘をささないほうがいいだろう。
少女は少し湿った傘をカバンにしまう。
時は夕刻。
空は曇った水色。
傘を閉じて再び歩きだす。
雨粒が顔にかかる。
少女は、ふと、空を見上げた。
すると少女は、なにか珍しいものでも見つけたかのような顔をした。
雨が降るなか、一人、立ちすくむ。
初めて学校を下から見上げた。
初めてあそこに鳥の巣があることを知った。
初めてあそこの木の背の高さを知った。
まるでスローモーションのように、雨粒は遥か上空から降り注ぐ。
見上げた世界は、すべてが新しい発見だった。
そして、少女は、傘をさしている訳でもないのに、いつも自分が下ばかり見ている事に気がつかされた。
雲の切れ間から、西日が差し込む。
雨粒に反射し、あちこちがオレンジ色に包まれる。
その光のなかを軽やかに、強い風に髪を揺らし駆ける少女がいた。
通り雨、霧雨のなか、傘もささずに。