□引退までに無くす3コの悔い―今井建の場合―
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今井建、もうすぐ15、朝日中学弓道所属。

来週から夏休みになってしまう。
八月になれば引退だ。
俺はそれまでに、3コの悔いをなくそうと考える。

幸い今日は土曜練習。
時間もある、覚悟もきめてんだ、1コの悔いをなくそうじゃないか。


「ぉはよー。」

部活規則其ノ一の挨拶を三年男子らしいけだるい感じですませ、蒸し暑くこもった道場に入る。

あちらこちらから、ぱらぱらとさらにけだるい返事がかえってくる。

朝日中弓道部の道場は、荷物や弓具を置く控えと、記録用のでかいホワイトボードがある射場と、屋根つきの屋外巻藁場と、うった矢が刺さる安土と物置で構成されている。

控えを入って、右手には弓置場、左はロッカーやらなんかがあって、ロッカーを曲がると射場にいける。

入ってすぐ、ホワイトボードが見える。左にむけば、弓を引くひとがいる。

50年くらいの歴史ある道場らしいから、そこらへんボロボロだ。

床板なんかボコボコで、抜けそうなとこもある。
そんな床に、一年は座らされて先輩の射をみてる。見取りってやつだ。もちろん武道らしく正座。
足が痺れて顔が歪んでいる者もいる。

「おはよー、もう締め切るけど、うつ?」

話し掛けてきたのは弓道部主将、そして俺の友達宇佐未雅巳。
「まさみ」なんていうけど、短髪のれっきとした男。
細身の割には筋肉質という憎い体型だ。
まぁ顔は十人並みだろう。
む、妬みじゃなくて一般論だ。

「んー、そうだな…いいや、控えいるわ。」

うたない理由といえば俺みたいなヤツは射場に居ないほうがいいからだ。
静けさを好む部員がいるからな。
何度睨みつけられたことか。

まぁ、一番の理由としては、「今日なくす悔い」が控えに居たからだ。

仲薮紗十未。

いわゆる、その…、好きな人ってやつだ…。

そう、俺の今日なくす「悔い」とは、こいつに告白することだ。

覚悟は一週間前からきめてんだ。

……あぁ、鼓動が、速くなる。
ジャージの上からでもわかるぐらい、大きく、速い。

今日はポニーテールかぁ、髪のびたなぁ、袴着直してるのかぁ、後ろの紐ほどきにくそうだなぁ、生足みえてるなぁ、今日はジャージはいてない
…お!?女子の袴って確か後ろにスリットがあったような………
み…みえる!?みえ……!!!
「おい」

!!!!!!!!!!!!
心臓が飛び出る!ってのが心底当て嵌まるほど俺の心臓はドクンと鼓動した。

「そろそろ集合かけんぞ。こっち来いよ。」

雅巳!!雅巳!!
今だけはお前をうらむぞぉぉお……!!

耳まで聞こえるほど大きく鳴る心臓を押さえ、射場に消えてく主将の背中をひたすら睨みつづけた。
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