「お喜び下さい、皇孫女殿下のご誕生です!」


皇族の身辺を取り仕切る侍従長が、転がり込む勢いでお産の控え室に駆け込んできた。

そわそわと落ち着かない様子でいたコーネリア・リ・ブリタニアは思わず立ち上がる。


「う、生まれたのか!?ユーフェミアは…赤ん坊は!!」


我知らず、側近のギルバート・G・P・ギルフォードと両手を握り合ったまま、コーネリアは恐る恐る確認した。

猛将と名高い彼女の美貌は気色ばみ、蝋のように青ざめてる。

侍従頭は扉も閉めず、歓喜の声を上げた。


「母子共に健康でございます!まさか皇帝陛下の初孫君のご誕生に立ち会えるとは…わたくし、感無量でございます」


そう目頭を押さえた侍従頭に、コーネリアは瞳から熱いものが込み上げてくるのを必死になって堪える。

ブリタニア皇室の皇統はこれで安泰だ。

しかしながら、コーネリアはふん、と、鼻を鳴らすとそっぽを向く。


「ま、まあ、初孫には違いないが、あれは皇位継承権を既に返上している。イレヴンごときの子供に殿下などと敬称をつけるべきではない。…しかし、私もついに伯母か」

「…コーネリア様はいつまでも若々しく、壮麗でございます」


感無量といった風に呟いたコーネリアに、ギルフォードは恭しく頭を下げて囁いた。


「初めてお会いしたその日より、我が心を支配する女神はコーネリア様お一人でございます。おお、我が忠誠、我が君…」

「…それで、侍従頭。ユーフェミアの後産は終わったのか?」


愛の告白めいたギルフォードの囁きにも意を介さず、コーネリアは侍従頭に詰め寄る。彼女の関心は、最愛の妹のお産が無事に済んだかどうかなのだ。


「はい。つやつやとしたお顔色でございます。御子様も、ロイヤルアメジストの美しい姫君で…」


その言葉に、コーネリアの空色の瞳は潤んだ。お産という大役を果たした妹をねぎらってやらねば、と、颯爽と歩き始める。

産室に入ると、寝台には妹の夫…と未だに認められずにいる青年と、彼に寄り添う最愛の妹とがゆりかごの赤ん坊を覗き込んでいた。

お姉様、と、春の空のように澄んだ瞳がコーネリアを見つめると、彼女の胸はいっぱいになる。


「ゆ、ユフィ」

「はい、お姉様」

「…お前は私の姪を産んでくれた。ありがとう、ユフィ」


コーネリアはユーフェミアの繊細な手を取ると、絵物語の王子のようにそっと口づけた。

ユーフェミアはくすぐったいと肩を竦めて笑う。


「お姉様ったら、大袈裟なんだから」

「何が大袈裟なものか。古来より出産は死を伴う危険な行為だったのだぞ。それをお前のようにか弱な娘が…、わ、私は、気が気でなかった」


コーネリアの指先は妹の顎先を捉えて、今にもキスしてしまいそうな勢いだった。

これではどちらが父親なのかわからない…。腕の中にユーフェミアを抱き込むと、枢木スザクは全身を射抜くような義姉の視線に身震いした。


「ゆ、ユフィ。コーネリア様にお礼の言葉を」

「ええ、ご心配をおかけ致しました。本当にありがとうございます、お姉様」

「いや…本当に、良かった」


コーネリアは満足げに頷くと、ゆりかごの中で眠る赤ん坊を覗き込んだ。

すやすやと寝息を立てている赤ん坊に、コーネリアは深い感動を覚える。


「なんて可愛いらしいんだ…!」


平素の振る舞いが嘘のように、コーネリアは形相を崩した。


「…見ろ、ギルフォード!この絹のような手触りの髪、小鹿のようにつぶらな瞳はユフィそっくりだ!きっと、この子は世界一の美姫になるぞ」


その言葉に、ギルフォードはしごく真面目に頷き返す。


「ええ、この白いお肌、芸術品のように彫りの深いお顔付きはコーネリア様にそっくりです。きっと勇猛果敢な武人となられることでしょう…」

「……」


その様子を見ていた、新生児の両親となったばかりの青年と少女は顔を見合わせた。

新生児に夢中の様子であるコーネリアに、ユーフェミアはおっとりと微笑む。


「…良かった。お姉様、喜んでくださって…」


皇籍を返上したとはいえ、ユーフェミアはブリタニア皇室に連なる血筋である。

敗戦国の要人の息子である枢木スザクとの結婚は到底認められるものではなく、前代未聞の『出来ちゃった婚』が発覚した際は、血の雨が降った…。

のほほんとした顔で微笑む愛妻に、スザクは複雑な表情を浮かべる。


「そうだね…でも」


赤ん坊を挟んで、コーネリアとギルフォードは不毛な言い争いを始めている。


「…それではギルフォード、貴様はこの娘が世界で一番美しいと認めないというのか…!?」

「いいえ、コーネリア様!!私はただ、コーネリア様こそが至上のお方だと…」

「……」


過保護な伯母と、その側近に挟まれて、この子の将来はどうなるのだろうかと…、と、ユーフェミアの肩を抱きながら心底思うスザクであった。




その子の名はユーフォリア
(愛される運命に生まれた、薄紅の天使)


END

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スザユフィ

「スザユフィで、子供が生まれた朝のお話」というリクエストをいただきました。

昔だったらそういう幸せなお話は考えるだけでも辛かったのですが(悲しい気持ちになって)、最近はそんな可能性があってもいいかなと思います^^

素敵なリクエストをありがとうございました!



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