‡悟飯受けの部屋‡
□【花盗人】
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そんな、まるきり変化のない天界で生涯を過ごし、滅多に下界に降りられないデンデを労わる為に、ミスターポポは季節の花を植えてデンデの目を慰めているのだった。
主に対するミスターポポの絶対的な忠誠心と献身的な努力には、誰もが敬意を払い、信頼を置いている。
そうと知りながら、ミスターポポの真心を踏みにじるような行為を、悟飯は犯してしまうところだったのだ。
更に間の悪いことに、花壇の水やりの為にこちらにやって来たミスターポポが、ピッコロの影で縮こまった悟飯を発見してしまった。
「孫悟飯、よく来たな」
「あ・・・こんにちは、ミスターポポ。・・・ごめんなさい、僕、ミスターポポがデンデの為に大事に育てた花を・・・」
ミスターポポはさきほどの悟飯の行動を知らないと見えて、いつもと同じ出迎えの台詞を述べたが、悟飯は罪悪感から謝罪の言葉が途切れてしまう。
ミスターポポを振り返って体の向きを変えたピッコロは、歯切れの悪い悟飯に冷たい一瞥を投げたきり、腕組みをしただけで、悟飯の免罪を乞う一言も発しはしなかった。
ピッコロのこの態度は、悟飯が己の弟子だからこそ特別に厳しく振舞ったものではない。
時として、神さまの為に用意されたものに外部の人間が損傷を与えるのは、許されざる不敬罪に値することもあるのだ。
「気にすることない。孫悟飯喜ぶと、神さまも喜ぶ。神さま喜ぶ、ポポ嬉しい」
ミスターポポは常と変わらず抑揚のない声で淡々と語ったが、ミスターポポの不興を買わずに済んだことにほっと胸を撫で下ろした悟飯は、ピッコロに気づかれぬようにこっそりと安堵のため息を吐いた。
無表情で喜怒哀楽を表面に出さないミスターポポは、人への好悪の念に関しても例外ではない。
特定の人物に好意を抱き、感情に支配されるようでは、神さまの世話人は務まらないからだ。
だが、悟空の身内に対しては好意的であることは、天界を訪れた者がすべからく感じていた。
中でもとりわけ、主の友人である悟飯の来訪は毎回歓迎された。
下界からの訪問者を喜ぶデンデの笑顔が、悟飯の姿を認めた時だけ輝きを増すからだった。
「ありがとう、ミスターポポ!」
「・・・ふん、デンデに免じて許して貰えたか」
「ピッコロ、孫悟飯からかうの、よくない。孫悟飯、神さまの親友。神さまの親友、花壇の花摘んでも神さま怒らない。神さま怒らないから、ポポも怒らない。神さまとポポ怒らないの、ピッコロ知ってる。知ってるのに、ピッコロ、ワザと孫悟飯に厳しいこと言った」
「なっ・・・!」
「ミスターポポ、オレはこいつをからかったんじゃないぞ。こいつが、頭のおかしいオレの言うことを間に受けただけだ」
「なっ・・・、なっ、なっ・・・!・・・あっ、あっ、あれはっ・・・!」
腕組みをしたまますまし顔でぬけぬけと言い放つピッコロに対し、さまざまな想いが胸に渦巻いて言葉にならない悟飯は、まるでからくり人形のように役目を果たさない口をぱくぱくとさせるだけだった。
咄嗟に口から出た言葉のあやとはいえ、あの時はやむを得ない事情があったのをピッコロも承知している筈なのに。
「・・・ピッコロ、頭おかしいのか?」
「ああ、こいつが言うには、な」
「あ、あの・・・ピッコロさん、その・・・あ、あの時は・・・」
「ふん!」
「・・・・・・」
ミスターポポは、しどろもどろになりながら顔色を目まぐるしく変化させる悟飯と、当惑している悟飯には目もくれずにそっぽを向くピッコロとを交互に見比べ、さてどちらに味方したものかと表情には出さずに知恵を絞った。
「ポポ、神さま呼んでくる。神さま、先々代の神さまたちと対面中。おまえたち、神さま来るまでに痴話喧嘩やめておく」
「ちっ、痴話喧嘩!?」
「・・・!」
「ミスターポポ、これは痴話喧嘩なんかじゃなくって、僕が以前ピッコロさんのことを失礼な言い方をしたから・・・」
「いや、それには及ばん。デンデは今、近頃の異常気象による地球規模の食糧不足について先々代の神たちに相談してるんだろう。ことが重大なだけに、邪魔をするのは忍びない」
初めて聞かされたデンデが抱えている問題に、悟飯はハッと息を呑んだ。
デンデは天界で何不自由ない日々の生活を保証されている代わりに、地球と、地上に生息するすべての命に対して責任を負っているのだ。
悟飯とたいして年齢が変わらないのにも関わらず。
「オレたちは少し、下界を散歩してくる。何、心配はいらん。これ以上、ミスターポポが言う痴話喧嘩とやらをするつもりはないからな。行くぞ、悟飯」