‡裏‡

□【僕の憂鬱 ―前編―】
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「またこんなに散らかして」

困惑を通り越した幼い声が、呆れた、と先を続ける。
週に一度のペースで塾の行きか帰りに『ここ』に立ち寄っているが、悟飯の記憶では、『ここ』が綺麗に片付いていたことなど一度もない。
何も出来ない乳幼児じゃあるまいし、いい歳の大人なのだから、出来る範囲のこと位自分でやってみたらどうなのだ。
例えば、洗濯は出来なくても脱いだ服は洗濯機に放り込むとか、洗い物が苦手でも食べ終わった食器を流しに運ぶとか・・・。
ダイニングキッチンを兼ねた広いリビングを見渡せば、そこら中に脱ぎ散らかされた衣類に、ページがめくられたままの雑誌が方々に置き去りにされている。
そして窮めつけが、テーブルの上にテンコ盛りにされたうんざりするほどの食器の数々。
その食器の中に覚えのある皿を見つけ、悟飯はもしやと思い、キッチンへと駆け込んだ。

「やっぱり・・・」

今度ばかりは呆れるより諦めた、と表現した方が相応しい。
悟飯の予想通り、流しの中もIHテーブルの上も、見事なまでにありとあらゆる鍋やフライパンで埋まっている。
どうやら、ありったけの鍋とフライパンを使い尽くしたらしい。
それより何より悟飯が憤慨したのは、一週間前に悟飯が作ったカレー鍋が、水を張られたまま放置されていたことだった。
恐る恐る中を覗き込めば・・・。

「げっ!!…カビが生えてる…」

そこには白と緑色のカビが、幾つも丸く花を咲かせていた。

これを洗って、また使うのか?

そう思うと、悟飯の背筋をゾクリ、と冷たいものが降りてくる。
不精にも限度というものがあるのではあるまいか。
近頃では、悟飯はそう思わずにはいられない。
確か、テーブルの上に重ねられたままになっている皿の中には、いつ食べたのかわからない料理のギトギトの脂が、乾いてこびりついていたものも あった。
恐らく酒を呑んだのであろう、旱魃で干からびた湖の底のように、僅かな水分がかぴかぴに乾いたグラスも。
更に、悟飯に打撃を与えた、炭水化物の粘り気が張り付いた茶碗の数々・・・。

ああ、もう、うんざりする・・・!

これを、今から塾に向かう前の、子供の自分に片付けろと言うのか。
そもそも悟飯には、ターレスにそこまでしてやる義理はない。
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