‡悟飯受けの部屋‡

□【まどろみ】
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「何でこのオレが、風邪なんてものにかからなきゃならねぇんだ?」


顔にデカデカと『理不尽』の三文字を書き、憮然とターレスはぼやいた。


「ターレスは地球歴が長いから、きっと体質が地球人に似てきたんだよ」


見た目にもアツアツのお粥を銀色のトレイに乗せて運びながら、悟飯は同情の入り交じった笑顔で答える。


朝から動きが鈍く、何となく気怠そうにしていたターレスは、幾度もくしゃみを連発し、形の良い鼻をすすり、顔色に至っては、赤から青に、青から赤にと、体の変色の得意なカメレオンも驚くほどの変化を見せた。

端正な顔立ちの頬が薔薇色に染まっているのにも関わらず寒さを訴えるターレスに、さすがに心配になった悟飯は、病院での受診を勧めた。

が、宇宙最強の戦闘民族の呼び名も高いサイヤ人としてのプライドが許さないのか、頑としてターレスは首を縦に振らなかった。

仕方なく悟飯は近所のドラッグストアで市販の風邪薬を求め、空きっ腹で服薬させるわけにはいかないからと、食欲のないターレスの為に、痛めた咽喉でも食べやすいお粥をこしらえたのだった。

が、生まれて初めて病気などというものを患ったターレスは依然として納得がいかないらしく、先程の悟飯の言葉と銀色のトレイに非難がましい視線を送る。

その針のような視線から、『何を食わせる気だ』と無言で訴えるターレスの不愉快さを、悟飯は読み取っていた。


「ベジータ星には『風邪』なんて病気はなかった」


「風邪のウィルスは、地球の環境にだけ適しているのかも知れないね」


ウィルス?


そんな、目にも見えないものにオレは負けたのか、と、悔しさと情けなさにターレスは臍を噛む。


「さ、薬を飲む前に、少しでも胃に食物を入れてよ」


「・・・食欲がない」


「僕が食べさせてあげるから、ね?」


そんなもの食べたら、今や貴重種となった純血のサイヤ人のこのオレ様が、尚更地球のへんてこな病気に負けたみたいではないか。

それに、地球人が造った薬なんぞが、オレの体に効くとは限らない。


宥める悟飯の笑顔と、悟飯特製のお粥を交互に見比べるターレスの不信に満ちた瞳が、悟飯に語りかける。

だが、悟飯はターレスの不機嫌な問いには何も
応えず、代わりにふぅふぅと己の息を吹きかけて冷ましたひとさじのお粥を、むんと横一文字に引き結んだターレスの口元に運んだ。
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