‡感謝の部屋‡

□2020年2月〜2021年8月
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【バウムクーヘン】



「うんめぇー!!すげぇうめぇぞ、これっ!!」

「しっとりとした滑らかな舌触り、上品な甘さ。本当に美味ですわね」

「味も良いけど、木の年輪を模したスイーツなんて、なかなか面白いんじゃないの」

「でしょ〜!!まだまだたっくさんあるから、みんな遠慮しないで食べてね!」

ふるまれたスイーツを口々に絶賛する面々と、自身の見立てを褒められて上機嫌の主催者と、グルメの食事に慣れている筈なのに、ひとり黙々とスイーツを頬張る主催者の夫。
今や恒例となった宇宙規模の食事会に、カプセルコーポレーションは雑多な賑わいを見せていた。
元来の性格からパーティー好きの友人の恩恵に預かり、エンゲル係数の高い孫家ではまずありつけない高級スイーツを堪能している悟空の気分も上々だった。
ホールのままのバウムクーヘンをそれぞれ両の手に持ち、バウムクーヘンの外縁をコーティングしたシュガーで口の周りが汚れるのも構わず交互にかぶりついて、高額な料金に見合う美味を味わった。
ひっきりなしにバウムクーヘンを口もとに運ぶその手が止まったのは、向かい側に座るふたりの子供の珍しい食べ方に気づいた時だった。

「なんだ、おめぇ達、変わった食べ方してんなぁ?」

この歳まで生きてきて、こんな食べ方をする奴は初めて見た、と悟空は率直な気持ちを言葉に表した。

「へっへー。おじさん、知らないの〜?こうやって食べると、面白いんだよー」

「どっちの方が薄くて長くはがせるか、勝負してるんだよね、トランクス君!」

年長のトランクスが得意げに言えば、トランクスに便乗して歳下の悟天が注釈を加えた。
ふたりは器用なことに、バウムクーヘンの薄い層を唇で丁寧にはがし、はがれた部分を口の中に引き入れて少しずつ咀嚼していた。
そんな食べ方もあるのかと、感心しきりに悟空が周囲に視線を巡らせてみると、なるほど、同じスイーツなのに楽しみ方は銘々違っていた。
マナーの存在などお構いなしに手づかみの悟空と、一応フォークに刺しはしたものの、ホールごと齧り付くベジータと、手もフォークも使わずに、みごとに口だけで平らげてゆく子供達と、上品に一口サイズに切り分ける、その他大勢の大人達と、そして、同じく一口サイズに切り分けて、外側のシュガーから先に頬張る悟飯と・・・。
こんなに楽しみ方がいろいろあるなんて、なんだかバウムクーヘンって悟飯みたいだ、と悟空は思った。
キスの後いきなりかぶりついて良し、時間をかけて衣類を一枚一枚丁寧に脱がせて焦らすのも良し、テクニックを小出しにして追い詰めるのも良しと、その日、その時の悟空の気分次第で様々に楽しめる。

さて、今夜はどんな楽しみ方をしてやろうか―

口の端のコーティングシュガーを舐め取る悟飯の舌に、悟空はぞくりと背筋をふるわせた。





END


 

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