‡感謝の部屋‡

□2012年1月
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【僕を哀れと思うなら】


誰か、僕を哀れと思うなら、あの人を僕に下さい。
他には何もいらない、他には何も望まない。
僕には、あの人だけなんです。
あの人しか、いないんです。






『ダメだ。その願いは叶えられない』

ああ、あなたの顔中にキスしたい。

『どうして?神龍は何でも願いを叶えてくれるんじゃないの?』

あなたを体中舐め回したい。

『ドラゴンボールを造り出した者の能力を超える願いは、叶えられん。人の心を変えるのは、私を造り出した者の能力を超える』

一日中あなたをこの腕に抱き、一晩中あなたの寝顔を見ていたい。

『神龍を造り出した者って、デンデさんのこと?』

あなただけ、あなただけが欲しい。

『そうだ』

他には何もいらない、他には何も望まない。

地位も名誉も財産も、優秀な頭脳も見てくれの良い容姿も、何も欲しくない。

『なら、別の願いなら叶えてくれる?』

それなのに、あなたは僕に残酷なことを言う。

『七つのドラゴンボールを集めし者よ、他に願いがあるなら願いを言うが良い』

“早く可愛い子を見つけろよ”なんて言うんだ。
“お前の歳には、お父さんもお母さんも結婚してたんだぞ”なんて言うんだ。

『神龍、僕、兄ちゃんが欲しいんだ』

自分はさっさと結婚したからって。
おまけに、パンちゃんまで生まれたからって。

『孫 悟飯の心は変わらないままだが、それでも良いのか?』

僕に、あんな酷いことを言うなんて。

『うん、それでも良い』

あんまりだよ。

『どんな形であれ、孫 悟飯を手に入れるのが、そなたの願いなのだな?』

兄ちゃんは、僕が生まれた時から僕のものだったのに。

『うん、どんな形でも良い』

たった一人の女性に独占されて、僕には夢のひと欠片さえ与えてくれないなんて。

『その願い、聞き届けたりー』










そうして、兄ちゃんは僕のものになった。
現実の兄ちゃんとは違う、中身のない、空っぽの兄ちゃんが。

ようやっと手に入れた兄ちゃんの体に、僕が今まで我慢してたこと、全部やってやろうかと思う。


だけどー


この兄ちゃんは、僕に笑わない。
僕に話しかけない。
僕を愛してくれない。


僕の思いどおりに動かせるだけの、ただの人形。






ーああ、誰か、僕を哀れに思うなら、あの人を僕に下さい。
僕の流す涙の1/100でも良い、誰か、僕を哀れと思って下さい。





END


2012.1.21〜2012.2.3


 

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