バレンシアで乾杯を

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ゼロ距離ともいえる爆風には流石のドローンも耐えることが出来ず、彼らの見ているモニターの画面は激しく回転をしている。後ろで見ていたベルフェゴールが慌ててモニターまで近寄る。スクアーロの怒声を後ろにそれを操作していた隊員が必死にドローンの軌道を正す。
なんとか体制を建て直したドローンの視界は土煙で埋め尽くされていた。相当な爆発だったのだろう、屋敷内の証明は大半が破損していた。しかし、月明かりで屋敷内は照らされていたため、薄らだが確認は出来るようだった。彼は部下にアリスのいた場所まで戻すように伝える、すぐさま土煙を掻き分け飛行するドローンの目の前に1つの影が映る。

「ゔぉぉぉぉい!!生きてるなら返事しろぉ!!」

『…うるさいなぁ』

スピーカーから聞こえてきたその声と土煙が晴れ、アリスの後ろ姿が見えたのは同時だった。彼女は耳からインカムを外すとそのまま地面に落とし、足で踏みつけた。スピーカーからは破壊音の後、雑音が流れる。スクアーロは、苦虫を噛み潰したよう表情をすると部下にドローンのマイクを付けるよう指示をする。マイクが入ると同時にアリスに向かって数人が突撃する声が聞こえてくる。彼女の背後、ドローンを追い越し、後数歩で剣先が当たる所まで迫ってくる。アリスはゆっくりと振り向くと同時に左手を胸の位置まで上げる。
その瞬間、突撃してきていた全員の動きが止まる。よく見ると、彼らの身体には深々と黒い何かが突き刺さっている。振り返ったアリスはそれが刺さり瀕死になっている彼らの方を見る。丁度彼女の表情がドローンに映る、任務中はどんな事があっても表情を崩さなかった彼女が目を細め、頬を紅潮させながら口角を吊り上げている。

『…Ciao』

その一言で彼らに刺さっていたそれは更に枝状に同じものを生やしていく。肉の切れる音、骨が砕かれる音が鳴り響く。しばらくし彼らが原型を留めなくなった辺りでアリスは少し考えると、その肉塊から数歩下がり、踵を地面に静かに叩きつける。それと同時にアリスの足元の影が少しずつ広がりを見せる。
ゆっくりと渦巻き状に広がる影はやがてヴァリアーの待機している小屋の下にも広がりを見せた。自分たちの下に影が来るのと同時に彼らは激しい悪寒に襲われる。

「な、なによこれぇ!」
「ししっ、冷や汗止まんねー」

身体を触られているような感覚に、必死に耐えながらも彼らはアリスを映すモニターを睨みつけるように凝視する。彼女は目を瞑り深呼吸をしながら何かを探しているようだった。そのまま数十秒経った時だった。目を開き満面笑みを浮かべるとそのまま後ろに倒れ込む、地面と衝突するその時、地面がまるで水の用に波打ちアリスの身体を包み込むとその場から姿を消した。

「!!どこいったぁ!」

スクアーロ部下に急いで探すよう指示する。部下は周りをドローンで飛ぶも姿が一向に見えない。痺れを切らし探しに行こうとした時、ドローンの横からアリスが現れる。先程よりも激しく返り血を浴びているその姿に危機感を感じたのか奥で食事をしていたXANXUSに声をかける、が、彼はスクアーロにグラスを投げつけると再び料理に口を付ける。

「しし、ボスつえー」
「まったくだよ、こんな状況で呑気にご飯食べてるんだから…」


『危ない危ない、置いていくとこだったよ』

スピーカーから聞こえたアリスの声に一斉にモニターに釘付けになる。アリスがドローンのカメラを見つめていた。そして少し顔を離すと勢いよくドローンを掴む。そのまま1歩歩き出したと思った瞬間、モニターの視界は一面の黒になった。部下が慌てて暗視に切り替えるが映し出されるのは黒いままだった。

「どうなってやがる…」

『きっと、理解出来てないだろから教えてあげる』

アリスは、ここは影の中だと告げた。初めて会った時に自分が消えたように感じたのはここの世界に入ったからだと付け加えた。この世界は通常と違い速いスピードで時間が動いているため皆の目には瞬間移動をしているように感じるだけと話す。
すると、目的のものを見つけたらしく嬉しそうに跳ねる。木々の擦れる音と共にモニターは屋敷の外の森を映し出していた。目の前には屋敷から逃げてきたのだろう数人が必死にどこかに向かい走っていた。

『…仕方がないから見せてあげるよ』

そう言うとアリスはドローンを上に投げ上げる。モニターが彼女と逃げる人々を映し出した。アリスは走る彼らに追いつくと指を鳴らす。その瞬間、彼らの足元から腕ほどの大量の蔦が伸び上がると、そのまま彼らを拘束する。そして、もがく彼らを上にアリスはもう一度指を鳴らした。バラバラになった肉塊と血飛沫を浴びながらアリスは、先程拘束を免れた男に視線を向ける。男は短く悲鳴を上げると慌てて走り出す。その様子を確認すると、どこからともなく大鎌を取りだした。そしてドローンの方をチラリと見ると男の後を追いかける。


『待って待って〜』

追いかけ始めて数分が経っただろう、男の体には幾つもの切り傷があった。男の体力が限界に近づいてくる、激しく息を切らし足元がふらつき始めた時、男は左腕に激痛を感じた、そこにはあるはずの腕が無かったのだ。男の絶叫にアリスは更に笑みを深くすると急かすように声をかける。気力の限界だったのかその場に座り込むとアリスに助けを懇願する。しかし、彼女は助けるつもりは無いらしい、大鎌を男の首元に近づけると大きく振りかぶる。

『あはっ、次は首だね』

男は短い悲鳴をあげると再び立ち上がり、ふらふらと走り出す。その様子をアリスは笑顔を崩すことなく着いていく、それをモニターから見ていた彼らはふと、その場所が自分たちのいる小屋の近くだということに気がついた。段々と小屋に近づいてくる2人に彼らはモニターではなく、入口に視線を移す。その時、扉が勢いよく開かれる。

「っ!た、助けてくれ!!」

男が小屋の中に入ろうとした時、後ろからアリスによって首を掴まれる。苦しそうに藻掻く男の後ろで彼女は別れの言葉を呟くと、掴んでいる手から炎を溢れ出す。それは彼女の手から男へと燃え移ると瞬く間に全身を覆う、ドサリ、と音を立て地面に崩れ落ちたそれは次第に闇へと溶け跡形もなく消え去った。

『ふふっ、あはっ、あははははは』

静寂の中、1人お腹を抱え笑い続けるアリスにスクアーロが険しい顔をして近づく。目の前まで迫ると未だに笑みを浮かべているアリスの胸ぐらを掴みあげる。

「…ゔぉぉい、何遊んでんだあ」

スクアーロの問いかけにアリスは鼻で笑うと、スルリと闇に溶ける。そのまま彼の後ろから現れ小屋の中へと足を進める。モニターの前に置かれた机の近くまで来るとその上に置かれていたファイルを手に取り部屋の端へと投げ捨てる。綺麗になった机の上に勢いよく腰掛けると足を組み、彼らの方へ視線を合わせる。

『…さあ、今日は記念すべき日だ!』

何でも話してあげるよ。と、微笑むアリスはとても楽しそうだった。
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