裏側

□3.5
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本日のイタリアの空は快晴なり、そんな事を思いながら羽織っていた布団を剥ぎ取る。こんな日は街へ買い物日和なんだろうけど生憎メンドーなので行かないでおく。ふと、談話室に誰かいるのではないかという期待を込めて部屋を出る。

「おはようございますー」

「フランちゃん!大変よぉ」

朝から見たくない顔が迫ってくる。どうやら問題が発生してるみたいだった。関わりたくないので部屋を出ようとしたが、問題の発生源が彼女だったため面白そうだと思い談話室へと足を進めた。

「どうしたんですかー?」

近づいてみると何時もより一回り小さい彼女がぐったりと横たわっていた。どうやら熱があるらしい、荒い息を上げていた。本来ならばここで適切な人間を持ってくるものなのだが生憎今日はボスやアホのロン毛隊長は不在だ。何なら堕王子もいない。
しかし、普段近寄り難い彼女がここまで衰弱しているのは珍しいものだと、頬をつついてみる。

『ん……う』

ゆっくりと瞼が開かれる。気だるげとはまた違う光のない死んだような目が自分を捉えている。心臓を鷲掴みにされた感覚に襲われた。ほんの数秒が数時間に感じた時、不意に彼女が口を開く。
その問いに答えると本人は興味がなさそうに呟き、目を逸らした。そのままゆっくりと半身を起こすと辺りを見渡す、一緒にいたオカマの説明を受け少し不思議そうな表情を浮かべながらも頷いていた。
説明を受け終わると彼女は静かに俯き、小さなため息を吐いた。ふと、以前堕王子から彼女の入隊時の話を思い出す。

「見ててくださーい」

彼女の前で手を合わせそのまま膨らませる。手の間からキラキラ輝く小さな砂粒が零れ落ちてくる、そのままゆっくりと上に投げるように手を広げる。手から出てくるのは濃紺のベールと小さく輝く砂粒だ。ベールは談話室を包み込むと少し明るい夜を作り出す、そのベールの上に砂粒が混ざり合う。
彼女はポカンとした表情でそれを眺めていた。キラキラの砂粒が反射し瞳に光が見えているように見える、それが少し面白く柄にもなく笑みを浮かべてしまった。
今度は手に残った少し大きめのキラキラを天井に向けて軽く息を吹きかける。
それらはゆっくりと天井に浮かび上がると、星座へと姿を変える。そのままテンポの良い踊りを見せると静かに砕ける。砕けた粒は何色にも輝いており、彼女へと降り注いでいた。

『…綺麗』

落ちてくる粒を手に乗せ、まじまじと眺めている彼女の手元を人差し指で数回軽く叩く。粒は手のひらに乗るほど小さなウサギへと形を変えた、それは彼女の手の上で跳ねたり匂いを嗅いでいる。時折彼女の方を見ると小首を傾げていた。
多分無意識なのだろう彼女の足元から黒い小さな花が数輪咲いていた。奥ではオカマが満面の笑みで写真を撮っている、大方堕王子にでも送り付けるのだろう。帰ってくる前に退散しとかないといけなくなってしまった。

『すごいね』

こちらを向き感嘆の声を上げる。少し落ち着いたのだろう先程の雰囲気とはまた違うものを感じた。他にも色々見せてあげたいのだが、もうタイムリミットの筈だ、また今度と約束をすると彼女は小さく頷いた。
それと同時に煙に包まれる彼女、煙が晴れる頃にはまた近寄り難い雰囲気に戻っているのだろうと思うとため息が出た。



〜とある10年後の話〜
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