バレンシアで乾杯を

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…はぐれた。アリスの好きそうな食べ物を探していたら、いつの間にか彼女は消えていた。頼みの綱のマーモンはベルフェゴールがしっかりと腕に抱いていたため、彼女の姿を確認していない。小さなため息を全身に浴びながら彼は元来た道を戻る。


チーズの匂いに釣られたアリスは、ふと自分の近くにベルフェゴールが居ないことに気がついた。しかし、今は目の前の食べ物の方に集中しており、探し見に行くという発想は無かった。ふと、テントのお兄さんと目が合う。おひとつどうですか?と聞かれる、彼女は手持ちのお金を確認すると、手と口を使い1つと答えた。商品が包まれている間、お兄さんが気さくに話しかけてくる。大体は頷いたり、短い単語を発していたが、何かを察したお兄さんは涙ぐむと、周りのテントの人達に大声で声をかける。

「おおい、みんな聞いてくれ!この嬢ちゃん、今日イタリアの土地に身一つで来たらしい。しかもっっ、なけなしの金で俺のパニーニを買ってくれたんだ!」

お兄さんの説明にテントを片付けていた数人がアリスを取り囲む。大変だ、等と各々が話しかける。対応に困ったアリスはコクコクと頷くことしか出来ずにいた。人集りが晴れた頃、彼女の両手には果物やパスタが詰め込まれた大きな紙袋が2つ抱えられていた。

「今日のパニーニ代はいらねぇ!これからのイタリア生活頑張ってくれ!」

そういうと、多分大量に商品が入っているであろう取っ手付きの紙袋を彼女の腕に通す。
大量の荷物で前が見えないながらもぺこりとお辞儀をすると、元来た道を戻る。

しばらく当てもなく進んでいると、誰かが前に立った気配がした。アリスは中身を落とさないように紙袋をずらすと、前にいる人物に目線を合わせる。
そこにいたのは、ベルフェゴールだった。彼は両手に抱えられていた紙袋を見ると、小さくため息を吐き1つを自分の方へ抱きかかえる。

「…何したらこんなに貰えるわけ?」

『間違ったことは言ってない』

おおよそ一般人が勝手に解釈違いをしたのだろうと思いながら、ベルフェゴールはマーケットの出口へと足を進めた。今度は逸れないようにしきりに後ろを確認する。アリスはしっかりと着いてきているようで振り返る度、視線が合う。その姿が面白いのか、彼の口角が少しずつ上がっていく。

マーケットを抜けると、最初に彼らを運んできた黒塗りの車が止まっていた。ベルフェゴールは自分の持っていた紙袋と彼女から紙袋を受け取ると側に立っていた隊員に渡す。そのまま後部座席の扉を開けると、アリスに入るよう促す。彼女が完全に入ったのを確認するとマーモンに続き、車へと乗り込んだ。

「楽しかった?」

外を眺めていたアリスにベルフェゴールが尋ねる、アリスは少し考え首を縦に振る。その回答に彼は、無理して答えた?と確認をする。彼女は否定をするとそういった感情がどんなものか分からないと答える。
ベルフェゴールは小さく唸ると、胸がドキドキして高鳴る事だ。と返答した。その答えに彼女は小さく復唱した。



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3人がイタリアの町へ繰り出している時間帯、ヴァリアー邸ではXANXUSとスクアーロが真剣な表情で何かを話していた。

「…それは本当なんだろうなぁ゛」

机にはいくつものファイルが置かれていたが分厚さは無く、どれも2,3cmと薄いものだった。彼らはそのファイルを手に取ると興味深そうに中身を見る。しかし、スクアーロの表情にはまた何か別のものを宿していた。そしてファイルとは別に1枚の紙を手に取る、再確認をするかのようにXANXUSへと視線を移す、彼は1つ欠伸をするとファイルを投げ捨て瞼を閉じた。


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