原田左之助

□1・恋する瞬間
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「ん……」





携帯から流れるメロディが部屋に響き目が覚める。




あれ……今日は休みじゃなかったか……。



アラーム消そうと携帯を開く。
すると、そこには懐かしい女友達の名前が出ていた。



着信は止まず、長いこと鳴っていたが暫くすると消えた。


休みくらいゆっくりさせてくれ……。



原田は携帯をマナーモードにして、また眠りについた。








次に目覚めた時には、外は夕暮れに染まっていた。寝過ぎたかとも思ったが、連日徹夜だった身体はまだ寝足りないようだった。





まだ眠っている頭を起こそうとキッチンに向かい、コーヒーを淹れる。

ソファにもたれ掛かって、ボーッとしていると空腹に襲われた。




朝から何も食べてないから当たり前か……。




冷蔵庫を開けるが、何も入っていない。




適当に出前でもとろうかと思ったが、今日1日外に出ずに終わるのも勿体無い気がして、近くのスーパーに行こうと車のキーを取り出した。





向かう途中で、煙草があと一本で無くなってしまうのに気づいて、コンビニに寄った。



すると目の前には高校生くらいの男が3人程固まっていて、よくよく見てみると真ん中には女の子が一人。


車の中だから会話は聞こえないが、女の子の怯えた様子からは知り合いではないということが伺えた。



しょうがねぇなぁ……。



車から降りてゆっくりと近付くと、原田は男の内のリーダー格らしい奴の肩に手を置いた。



「俺のツレに何してんだ?」



低く問い掛けると、振り向いた男は最初睨みをきかせていたが、原田の背の高さや威圧感によって崩れていった。


男付きかよと捨て台詞を吐いて消えていくのを見送ると、原田は初めてキチンと女の子を見据えた。

「すみません……ありがとうございました」


弱々しく頭を下げる彼女は、どこかで見た顔。




「……あれ……? お前……」




首を傾げる彼女は小動物の様で、どうしても結びつけにくいけれど……


紛れもなく写真に写っていた、雪村専務の娘だ。




「……え? あの……?」



硬直する原田に、オロオロと視線を泳がせる彼女。

「あ!あの……何か買いに来たんですよね……?」

「え……? あ……あぁ……」


「でしたら、お代は私に払わせてください!」

「は?」



真剣に言う彼女に押しきられ、煙草を買いに店内に入った。


だけどやはり年下の女の子にお金を出させるのはプライドが許せず、結局自分で払ってしまった。それを見た彼女はしょんぼりとしていて、まるで子犬の様でつい笑ってしまった。

「何で笑うんですかっ! これじゃあお礼にならないです!」


頬を膨らませた彼女が更に可愛く思えて、原田はいつの間にか彼女の手を取っていた。

「え……? あの……?」


「実家暮らしか?」


「いえ……一人です」


「夕飯食ったか?」


「あ……いえ……牛乳を切らしていたので買いに来たので……これから作ろうかと思って…」

「よしっ! じゃあ飯食いに行くぞ」


「えぇ!?」



半ば強引に助手席に座らされ、彼女はポカンとしていた。


「シートベルトしろよ〜」


原田の言葉に慌ててシートベルトを掴むが、少し考えてから彼女は告げた。


「あの……でも……見知らぬ方に……その……」



知らない人に付いてってはいけない。
誰もが言われるであろうことを彼女が口にするのはごもっともだ。


「原田左之助」


「え?」


ハンドルに顎を乗せながら、原田は目線だけ彼女に送った。


「絡まれていたのを助けてくれた原田左之助はこれから一人寂しく外食……優しい女の子はお礼に付き合いました」



ニヤリと笑った原田に、毒気が抜けたのか……彼女は笑いだした。


「原田さんて面白い方ですね」



「そぉか?」


「はいっ!」


元気よく返事をして、彼女はシートベルトを締めた。
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