原田左之助

□8.初めての感情
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胸がチクチク痛むのは初めてじゃない。


何度か体験したことはあったけれど…それを見て見ない振りをしていた。


だから言葉にした瞬間、何故だか涙が溢れた。




































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とある日の夕暮れ。
俺は、久しぶりに会った同級生と話し込んでいた。
会社帰りに偶然出会ったそいつは、高校3年の時のクラスメートで。
サバサバしていて、新八みたいなヤツ。
他愛も無い会話から、久しぶりに同窓会でもやりたいななんて話になり、俺は"そうだな"と頷く。



暫く互いの近況報告をして、携帯の番号を交換すると、俺はそいつと別れた。


千鶴の待つ我が家に向かうべく。









インターホンを二回鳴らしてから扉を開けると、ふんわりとお出汁の匂い。


原田は、思わず微笑んでしまう。



次いでパタパタとスリッパの音と共に、千鶴が現れる。

「おかえりなさい」


ピンクの水玉のエプロンで手を拭きながら、千鶴は微笑む。


「ただいま」



新八が見たら気色悪いとか言われそうだな…。
なんて思いながら、身体中から力が抜けていって、原田は千鶴の肩に顔を埋めた。


「すごく…お疲れですか?」


千鶴の小さな手のひらが、赤みがかった髪を撫でる。





馬鹿にされてるとか一切感じない労りの仕草に、原田は幸せだなぁと呟いた。









そんな穏やかな日々が暫く中、俺の携帯に同窓会の報せが届いた。


あぁ、あいつ本当に皆と連絡取ったんだなと、素直に感嘆し、手帳を開いてスケジュールを確認すれば、仕事帰りに行ける様。




夕食後にソファで原田に後ろから抱き締められながら一緒にテレビを見ていた千鶴が、高校の同窓会…と小さく呟く。
夕食を食べながら先日クラスメートと会ったことや同窓会に行く話をした原田に、千鶴は楽しんできて下さいねと微笑んで返していたのだが、何やら引っ掛かっていたらしい。


どうした? と原田が覗き込むと、千鶴は首を傾げながら質問してきた。

「そういえば原田さんの高校時代のお話って聞いたことないなぁ…と」


そして脳裏に過るのは、青春を謳歌し……いや…軽く濁そう…と決心させる様な日々。



不真面目だったわけでは無い、決して。
真面目でも無かったが。

別に成績も悪くなかったし、部活にも入っていた。



ただ思い出として大半を過るのは、歴代の彼女達。



わ……若気の至りってやつ…だよなぁ…。




男友達も多かったけれど、女友達も多かった。



誘われれば行くし、拒まない。



彼女と友達の境目が何なのか良く分からなくなってた。





「原田さん?」




不思議そうに原田を振り返る千鶴と目が合い、思わず口元が緩む。



「どうしたんですか?」



「いや、やっぱり千鶴はすげえなって」




原田の答えにきょとんとする千鶴に苦笑する。




あの頃の俺が見たら、何て言うんだろうな。





一人の女に夢中になっていて、しかも婚約までして。





結婚なんて檻に入る様なもんだと思ってた自分。


千鶴といられるなら檻でもいいやと思ってる自分。




きっと根本は変わらなくて…変わったのは…。





「千鶴はあったけぇな」




「昔から体温高いんですよ」




後ろからすっぽりと包まれると、千鶴は太い腕に首を預ける。




「最初は恥ずかしがってたのにな」



初めて千鶴とこの体勢でテレビを見た時、耳まで真っ赤にしていた事を思い出す。




「俺が動く度に反応して可愛かった」



「緊張してたんですっ」



今だって慣れたわけじゃないんです。と膨れた頬に口付けを落とすと、千鶴の耳が真っ赤に染まる。



「ほんとだ」




「今のはズルいです」




そんなやり取りをして、今日が終わる。




この時、話しておくべきだったと後悔するなんて思いもせずに。


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