原田左之助
□2・デートはデート
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「何だ? 左之……ニヤニヤして気持ち悪い……」
「……うるせぇ」
直帰しようとデスクを整理していたら震えた携帯に、原田は飛び付いた。
ディスプレイに映ったのは"千鶴"の文字。
思わず口元が緩むのくらい許して欲しい。
「何だよ……水臭ぇなっ女か!?」
携帯を覗き込もうとする永倉の眉間に手刀を食らわせて、原田は受信メールを開いた。
お仕事お疲れさまです
19時に前に会ったコンビニ前でいいんですよね?
何て事はないメールだったのだが、原田にはこのメールを送るまで何度も文章を足したり減らしたりしたであろう千鶴の性格が伺えてしまうものだった。
そしてムクムクと悪戯心が顔を出して、千鶴からの返信を期待しつつ送信ボタンを押した。
千鶴もお疲れ
また変なのに引っ掛からないように中で待ってろよ?
それから一応言っとくが、"デート"だからな?
ニヤリと口元に笑みを称えた数十分後……千鶴からの返信は"はい……頑張ります"というもので、原田は思わず笑ってしまった。
鞄とコートを手にして、タイムカードを切って出ていこうとした原田の視線に、暫くは顔を合わせたくない相手が映る。
「原田君!」
げ……。
やってしまった……と一瞬たじろぐも、小さく溜め息をついて自分を落ち着かせた。
「雪村専務、お疲れ様です」
「直帰するのかね?」
「はい、この後用事があるもので……」
上手くかわして逃げようとした時、背後から首に腕を回され、原田は後ろに倒れそうになる。
「女とデートだよな!」
「新八! てめぇ!」
余計な事を言うなと睨むが、時既に遅しで……。
「原田君は彼女が出来たのか!?」
「いや……只友達と呑みに行くだけなのにこいつが早とちりをっ」
「ダチからのメールであんなニヤニヤするなんて可笑しいだろうがっ」
「うっせぇ! お前には関係ねぇだろうが!」
下手な事を言われては堪らないと、必死に永倉を押さえ付ける原田。
「原田君……やっぱりお見合いしないか?」
「見合い!?」
何でお前が反応するんだと永倉を睨み付けた原田は、専務が酔った勢いで言ったのではないと分かり頭を抱えた。
「あの……それはお嬢様の意思といいますか……そういったのは……」
原田は二度目の台詞を告げたが、今回ばかりは何故か専務は引き下がらず……。
「いや! 千鶴なら大丈夫だ!」
「え……? 了承されてるんですか?」
意外な答えに原田は目を丸くしたが、
「私の目に間違いは無い! それとも私の娘では不服かね?」
「いえっあの……」
むしろ万々歳だと言いたいところだが、千鶴には好きなヤツがいる……。こんなやり方で手に入れるなんて俺のプライドが許せねぇ……。
どうしたものかと思案していると、永倉が興味津々といった様に乗り出してきた。
「娘さんの写真とかあるんですか?」
「あぁっこれだ」
「うぉっ! 可愛い……!」
「そうだろう?」
「左之にはもったいねぇや」
何やら原田を差し置いて談笑し始めた。
今の内だな。
その隙に原田は、「急いでるんで、また!」と走り出した。
背後から何やら聞こえてきたが全力で無視をして。