戦国無双始めました。

□Sweet citrus Valentine
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春の訪れを告げる梅の花が咲き始めたとはいえ、節分過ぎはまだ寒い。

そんなよく晴れた二月の午後、両手をすり合わせ、小走りで暖かい部屋に戻ろうとしていた半兵衛へ、廊下の向こうから呼び止める声がする。

「あ、半兵衛ちゃん、待って待って〜!」

世話好きな声、というのも、意気高な声や頼りなげな声というのと同様に存在するのだと、彼女の声を聞くたびに思う。

「何でしょう、おねね様」

子飼い3人組に何か渡していたねねが、半兵衛に追い付き千代紙で作った袋を渡した。

「いつもうちの人とか、みんなのために頑張ってくれてありがと!これ、作ったんだけど食べてみて☆」

「うわぁ、いいんですか?」

袋を受け取ると、彼女は小さくくしゃみをした。
廊下での立ち話は寒いので、自室にねねを通す。

「何だろ、開けてもいいですか?」

「どうぞ☆我ながらよくできたと思うんだ♪」

包みを開けると、ほのかに甘い香りがし、楕円形でいて厚みがあり、白っぽく、かつ極薄茶に色付いた、南蛮菓子が顔をのぞかせた。

「だっくわーず、って言うんだよ☆」

「もしかしておねね様、さっき清正達に渡してたのは…」

「同じモノだよ☆今日はねえ、南蛮の風習で[お世話になっている人に甘いモノをあげる日]なんだって。
それでね、材料と作り方を伴天連さんに聞いて、作ってみたんだ」

「お世話になっている人に甘いモノ、を?」

「そうなの。いい習慣だなと思って♪たまには甘いモノ食べたら、元気出るでしょ?」

サクッとした生地を噛むと、間に挟まれていたのか、ふわりと黒蜜の甘さが広がる。

「…美味しい!!…おねね様、これ官兵衛殿にも?」

「あ、官兵衛ちゃんにはねぇ…」

(俺も官兵衛殿に甘いモノあげたい!)

ねねの言葉を遠くに聞きながら、
半兵衛は秘かに拳を握った。





──その夜。



城下の市に出掛け、悩んだ末に買った品を懐に忍ばせて、灯の点るその部屋の障子の前で、一声かける半兵衛の姿があった。

「……か、官兵衛、殿〜?」

ドキドキが治まらず懐を押さえる。
コレを見て彼は何と言うだろう。
受け取ってくれるだろうか。

中から返事があった。

「どうしたのだ??寒いだろう、早く入れ」

「ん……ありがと」

障子を開けると、彼は灯の側に火鉢を置き、書見をしていたようだった。

「全く、普段はいきなり入って来る卿が」

「た、たまには…さ、…心境の変化、ってヤツ?」

用件を切り出せず、火鉢に懐く半兵衛に、そうか、とだけ言って官兵衛は視線をまた本に戻した。

「…っ官兵衛殿〜『何か用か??』くらい聞いてくれたってイイんじゃない?」

背後からのジト目を感じ、官兵衛は再び本を閉じて向き直った。

「用があれば躊躇わない卿だと思っていたが?」

「言い出しにくいコトもあるの!」

唇を尖らせたかと思うと、次の瞬間には頬を膨らませる。

「んもぅ!南蛮では今日が何の日だか知ってる!?…コレあげる!」

懐から出した包みを突き付ける。

赤い千代紙と白い懐紙を斜めにずらし、巾着のように上を絞って五色の糸で結んだ物だ。

受け取った官兵衛が糸を解くと、包みの中から溢れんばかりに紫や藤色、白の金平糖がのぞく。

「南蛮では今日は、お世話になっている人に甘いモノをあげる日、なんだって!」

そう、世話になっている官兵衛にその礼をするだけだというのに、何でこんなに緊張するんだろう。

「おねね様から聞いたのか」

「そうだよ?あ、官兵衛殿もおねね様のお菓子食べた?」

「ああ。南蛮寺に案内して、手伝ったのでな」

「ええっ、じゃ官兵衛殿もアレ作ったの!?」

ねねと共に台所に立ったのだろうか。とても想像できずに半兵衛は起き直った。

「私が主に間に入ったのは、適切な粉や砂糖の入手と分量くらいだ。
おねね様は伴天連の司祭と、身振り手振りで会話されてな。それで面白い誤解が生じていた」

「面白い誤解?何それ」

身を乗り出した半兵衛を、抱え上げて膝に乗せ、耳元でささやく。

「本来、南蛮では今日は…、恋人同士が互いに贈り物をする日、だ」

瞬時に半兵衛の頬が染まる。

「なっ何ソレ?!…お、俺はただ…」

「卿の気持ちは有り難く頂いた」

「ちょっ、…もぅ〜、何でソレおねね様に教えてあげなかったの〜?」

「真実を言って何になる?おねね様は大層張り切っていたし、子飼い達や配下の皆が喜ぶなら構わんだろう??」

「そりゃそうだけど…。うわぁ…、おねね様、ってか、秀吉様にはホントのコト言えないよ〜…」

愛妻家の主君を思い眉を寄せる半兵衛に対し、官兵衛はこともなげに肩をすくめた。

「我々が黙っていれば済むことだ」

「それもそうだけど…。ちぇ、そうと知ってれば、もっとちゃんとしたの用意したのに…」

照れ隠しに唇を尖らすものの、彼が何を、果たして誰を想って菓子を選んだかは、金平糖の色を見ればわかる。

「気にせずともよい、大事に食べることにしよう。……それに、」

腕の中の半兵衛の顎を指先で持ち上げ、口付ける。


「…卿が1番甘い」

「は、…ぁん…官兵衛殿ソレ反則っ…!」



⇒終幕。



と言いつつ、続いちゃうよ??☆

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