駄文置き場

□沖神
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真っ黒な柔らかい暗闇に
咲いたのは桃色の蓮の花


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「…なァにしてるんでィ。こんなとこで。」

冬なのに、やたらと日差しの強い日だった。
俺は見回りと銘打って、こっそり外で昼寝でもするつもりだった。

しかし、頓所の門前の影に
しゃがみこむひとりの少女。
桃色の前髪に隠れた大きな瞳が
まばたきしながら
ゆっくりとこちらに向けられる
透き通るような碧色
まるで空が映ったようだと思った。

その空が、す…とまぶしげに細められる。
「…なんだ。サド野郎か」

相変わらずの悪態
「なんだとはなんでィ。そんなとこに居られちゃ、真選組の看板が酢昆布臭くならァ」
いつもの調子で喧嘩をふっかける
そろそろ、重厚感のある番傘が…

あれ?

「…チャイナ。お前、傘どうしたんでィ」
いつもの番傘を、彼女が持っていないことに気づいた。

「…うっさいアル」
彼女は、ぷいと俺から顔をそむけた。
よくみれば、いつも真っ白な頬はピンク色に染まっていた。
手も、袖を伸ばしてなんとか覆っているようだ。
彼女がしゃがんだままなのは
立ち上がると日にさらされるからだろう。

仕方なく、彼女の前にしゃがみこむ。
「鼻、まっかっかですぜィ」
小さな鼻をつまんでやる。
「…つっ、何するアル!!ヒリヒリするネ!!」
彼女にしては、そうとうな時間日の下にいたのだろう。

ふと、二人の間を
冷たい風が通り抜けた。

「…飛んでしまったネ」
ポソッとつぶやいた唇が、少し赤く腫れていた
「どこに?」
「わかんないアル。でも多分…この中…」

裾からのぞいた指が、頓所の中をさす。
なるほど、飛ばされた傘を追いかけてきたのか。

「で、どうするつもりでィ」
「…サド、とってくるアル」
「それが人にモノを頼む態度か?」
もう一度、鼻をつまんでやった。
イテテと俺の手を振り払う顔が、少し気に入った。
「沖田様お願いしますって言え」
相当痛かったのか、涙目になった彼女は膨れっ面になりながらうつむいて言った
「お…きた…」
その先は全く聞こえなかったが、いつもは見られない表情に、俺は何故か満足していた。

「…仕方ねぇなァ。…じゃ、ホラ。」
自分のスカーフをほどいて、桃色の頭にかけた。
「中に入りなせェ」

白い布の合間から
碧の瞳が揺れるのが見えた


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