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「リリアっ!」
「あ…」
気がついたら私は教室にいて、知らないうちに予習をしていた。
まったく記憶にないから予習とは言えないんだけど。
「また先に行ったのね?ひどいじゃない!」
「ごめん。」
「もう、リリアの馬鹿っ!」
ヘーレンは怒っているような顔をしているけど、なんとなく分かるよ。
ジョージと話せて嬉しいって、顔に書いてある。
「ねぇリリア?」
「何?」
「私いつかジョージに告白したいんだけど、いつすればいいのかしら?」
「そんなの私が知ってると思う?」
「む、失礼だけど思わないわ…。」
そう言って、二人で笑う。こういう何でもない時が一番幸せだ、
「ヘーレンは綺麗だし明るくて優しいからヘーレンがその気になればジョージだって好きになってくれるわよ。」
「ふふ、ありがとう。そうだといいんだけどね。」
そううまく行かないわ、とヘーレンは困ったように微笑んだ。
私は恋とかあんまりした記憶がないから、何も言わなかった。
「うん、決めた!私、今日からジョージに本気でアタックする!」
「うん、がんばってヘーレン。」
「あら、もちろんリリアにも協力してもらうのよ?」
「ええそうだと思ったわ。」
呆れたように言えば、ヘーレンは嬉しそうにありがとう、と笑った。
そんなあなたが大好きよヘーレン、なんて恥ずかしくて言えないけれど。
そして授業が終わるや否やヘーレンは双子を探すために教室を出て行った。
そして私は置いてけぼりをくらう。
それだけジョージのことが好きで、必死なんだと思うと、なんだか変な気持ちだ。
また、あの気持ち。
もやもやと渦巻く悲しくて嬉しくて辛くて幸せな変な気持ち。
嫉妬?ヤキモチ?
だとしたら、誰に?
そこまでで考えるのを止めた。
この先を考えるのは、きっと気づいてはいけないことに気がついてしまいそうだから。
「おっリリア?」
「…リー。」
振り返ればそこにいたのはリー。
何だか久しぶりに話した気がして、少し嬉しい。
リーと話すのが嬉しいなんて変なの。
「相変わらずの無表情で安心したよ。」
「失礼ね、これでも驚いたわよ。」
「まさか、冗談だろ?」
「あら、石にしましょうか?それともネズミ?」
「ああ、悪かったって!最近双子と仲いいみたいだったから気になったんだよ。」
「仲がいい?おかしなこと言うのね、今ヘーレンに置いてけぼりをくらったところなのに?」
自分で言っておいてなんだけど、私ってばヘーレンに置いて行かれた事気にしてたのね。
おかしなはなし。
「そう言うなよリリア。」
「たしかに仲良くなったかもしれないけれど、あの三人の輪に入るのは、私には無理よ。」
「まぁそう落ち込むなって!」
「あら、いつから私の感情が分かるようになったのかしら?」
「いや、残念ながら分からないままだよリリア。」
「でしょうね、私落ち込んでないもの。」
「でも今のリリアは、前より雰囲気が柔らかくなった気がするよ。」
リーの言葉が意外すぎて、思わずもう一度、と聞き返してしまった。
どうやら私の思っている以上に私は双子に影響されているらしい。
そんなの、あんまりだわ。
「じゃあな、リリア。」
「ええ。」
私はリーと別れた後、少しショックを受けながらもヘーレンを探した。
「あ、リリアだ。」
しばらくして私の名前を呼んだその声はヘーレンではなかった。
もちろんリーでもなければ双子でもない。
「ルーナね。」
同じ寮の後輩のルーナだった。
彼女は優しい、人一倍優しい子だと誰かが言っていた。
「リリア、悩んでるね。」
「そうかしら?」
「うん、悩んでる。早く解決したほうがいい悩みだよ。」
「早く解決できる?」
「さぁ?それはリリア次第。」
「そう…。」
「頑張ってね、リリア。」
「ええ、ルーナも。」
ルーナはとっても優しくて不思議で勇敢な、とってもいい子なの。
ルーナはそれだけ言って去っていった。
あなたは素敵な子よ、私とは大違いね。
もちろん羨ましいなんて今に始まったことじゃないし、もう思ってないわ。