pronunciation

□08
1ページ/1ページ

   

「リリアっ!」

「あ…」


気がついたら私は教室にいて、知らないうちに予習をしていた。

まったく記憶にないから予習とは言えないんだけど。


「また先に行ったのね?ひどいじゃない!」

「ごめん。」

「もう、リリアの馬鹿っ!」


ヘーレンは怒っているような顔をしているけど、なんとなく分かるよ。

ジョージと話せて嬉しいって、顔に書いてある。


「ねぇリリア?」

「何?」

「私いつかジョージに告白したいんだけど、いつすればいいのかしら?」

「そんなの私が知ってると思う?」

「む、失礼だけど思わないわ…。」


そう言って、二人で笑う。こういう何でもない時が一番幸せだ、


「ヘーレンは綺麗だし明るくて優しいからヘーレンがその気になればジョージだって好きになってくれるわよ。」

「ふふ、ありがとう。そうだといいんだけどね。」


そううまく行かないわ、とヘーレンは困ったように微笑んだ。

私は恋とかあんまりした記憶がないから、何も言わなかった。


「うん、決めた!私、今日からジョージに本気でアタックする!」

「うん、がんばってヘーレン。」

「あら、もちろんリリアにも協力してもらうのよ?」

「ええそうだと思ったわ。」


呆れたように言えば、ヘーレンは嬉しそうにありがとう、と笑った。

そんなあなたが大好きよヘーレン、なんて恥ずかしくて言えないけれど。

そして授業が終わるや否やヘーレンは双子を探すために教室を出て行った。

そして私は置いてけぼりをくらう。


それだけジョージのことが好きで、必死なんだと思うと、なんだか変な気持ちだ。

また、あの気持ち。

もやもやと渦巻く悲しくて嬉しくて辛くて幸せな変な気持ち。


嫉妬?ヤキモチ?

だとしたら、誰に?

そこまでで考えるのを止めた。


この先を考えるのは、きっと気づいてはいけないことに気がついてしまいそうだから。


「おっリリア?」

「…リー。」


振り返ればそこにいたのはリー。
何だか久しぶりに話した気がして、少し嬉しい。

リーと話すのが嬉しいなんて変なの。


「相変わらずの無表情で安心したよ。」

「失礼ね、これでも驚いたわよ。」

「まさか、冗談だろ?」

「あら、石にしましょうか?それともネズミ?」

「ああ、悪かったって!最近双子と仲いいみたいだったから気になったんだよ。」

「仲がいい?おかしなこと言うのね、今ヘーレンに置いてけぼりをくらったところなのに?」


自分で言っておいてなんだけど、私ってばヘーレンに置いて行かれた事気にしてたのね。

おかしなはなし。


「そう言うなよリリア。」

「たしかに仲良くなったかもしれないけれど、あの三人の輪に入るのは、私には無理よ。」

「まぁそう落ち込むなって!」

「あら、いつから私の感情が分かるようになったのかしら?」

「いや、残念ながら分からないままだよリリア。」

「でしょうね、私落ち込んでないもの。」

「でも今のリリアは、前より雰囲気が柔らかくなった気がするよ。」


リーの言葉が意外すぎて、思わずもう一度、と聞き返してしまった。

どうやら私の思っている以上に私は双子に影響されているらしい。

そんなの、あんまりだわ。

「じゃあな、リリア。」

「ええ。」


私はリーと別れた後、少しショックを受けながらもヘーレンを探した。


「あ、リリアだ。」


しばらくして私の名前を呼んだその声はヘーレンではなかった。

もちろんリーでもなければ双子でもない。


「ルーナね。」


同じ寮の後輩のルーナだった。

彼女は優しい、人一倍優しい子だと誰かが言っていた。


「リリア、悩んでるね。」

「そうかしら?」

「うん、悩んでる。早く解決したほうがいい悩みだよ。」

「早く解決できる?」

「さぁ?それはリリア次第。」

「そう…。」

「頑張ってね、リリア。」

「ええ、ルーナも。」


ルーナはとっても優しくて不思議で勇敢な、とってもいい子なの。


ルーナはそれだけ言って去っていった。

あなたは素敵な子よ、私とは大違いね。

もちろん羨ましいなんて今に始まったことじゃないし、もう思ってないわ。


    

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ