【アリスドール-another dolls-】(短編)U

□Invisible Crack
1ページ/1ページ




「アリス、悪りぃ!少し遅くなる!」


下校になり、珍しくアリスが図書室にも寄らず、早く帰ろうとしていた。
本来なら俺も帰ろうとしたのだが、ヤボ用が急遽入ってしまった。


「また先生に呼び出されたの?今度は何したのよ…」
「今回は呼び出しじゃねぇよ。何でお前は俺の顔を見るなり、呼び出しだと思うんだよ!」


喧嘩するつもりなんかねぇのに、こんな言い方したら──


「日頃の行いでしょ。で、どんな用?」

 
喧嘩になる、そう思ったのに。
今日のアリスは冷静だった。
だから俺も冷静さを取り戻せた。


「昼休みにクラスのヤツらとサッカーしてたら、窓割っちゃってさ。連帯責任で校長室を掃除しなきゃいけなくなった。だから、もう少し待っててくんねぇ?」

 
待つの当たり前だよな。俺、いつもお前の帰り待ってんだから。ところが。


「今日はスーパー寄りたいから先に帰る」
「待ってくれないのかよ!ひどくねぇ!?」
「ひどくないわよ。じゃあ、頑張ってキレイに校長室を掃除してきてね」

 
笑顔で手を振る、アリス。


「おい、一人で帰るのかよ!せめて誰かと一緒に帰っ…」
「知り合いは皆帰っちゃったわよ。じゃあね」
「ちょっと待っ…アリス!」

 
お前は一人で帰る危険を知らねェんだよ!

アリスを追いかけようとしたが、クラスのヤツらに捕まった。


「ハルク。ほら、俺達は仲良く校長室に行くぞー」
「ちょっと待ってよ! まだ話は──」
「アリスと一緒に帰りたいのはわかるけど、俺達にはまだ掃除が待ってるんだから。ね?」


こんな奴ら一瞬で──と、いきたいところだが……
そうはいかないのは現実。
こうなりゃ、急いで掃除を終わらせてアリスに追い付いてやる!


✕  ✕  ✕


「人参とじゃがいもと玉ねぎと……」


今夜はママもパパも遅い。
だからきっと、ハルクと二人ご飯。
一人よりマシ……なんだろうけど、最近ハルクは口煩い。
この前だって──


「アリスじゃねーか」


名前を呼ばれたけど、気付かないふりをした。


「アリス、偶然だな」


肩を掴まれ、逃げ場がなくなった──



✕  ✕  ✕


 
「今頃、家には着いた頃か……」


意気込み虚しく、校長室で更に事件は起きてしまった。
担任という見張りがいなくなった瞬間、第二ラウンド開始。
そして例の如く、即効やらかした奴が……


「君達は掃除しに来たのか、物を壊しに来たのか──」


校長先生から説教を受ける羽目に。
早く帰りてェのに、クソ……
俺が何したってんだよ……


✕  ✕  ✕



「何してんだ? って、買い物だよな」
「リ、リゼルは?」
「オレも。見りゃ分かんだろ」
「そ、そうだよね……」


……ハルクを待ってれば良かった。
後悔先に立たず……


「お前……唐辛子なんかどーすんの?」
「え? 唐辛子?」


私の買い物かごに唐辛子なんて入ってないけど……もしかして──


「人参の事かな……」
「人参だぁ? 唐辛子だろが! 人参てのはな、コレの事を言うんだぜ」


リゼルは自信満々に唐辛子を取り出して言った。
 

「……あの……コレは?」
「あ? じゃがいもを知らねーの?」


自信満々に取り出したのは……里芋。
玉ねぎのことは流石に知っていたけど……


「もしかして、カレーの材料?」
「見りゃ分かんだろーが」
「うちも……カレーなんだけど、良かったら食べにくる?」
「あ? え?! は!? 行くかよ! いや、仕方ねーな!」


リゼルは何故か顔を赤くしながら言った。


「じゃあ、後で──」
「かご、持ってやるよ」
「あ、ありがとう」


リゼルはそそくさと、私のかごの中のものを戻した。
リゼルセレクトはあまりにも酷かったので、別のものも買うと言って外で待ってもらうことにした。



✕  ✕  ✕


「はぁ。やっと帰れ──」
「話、長すぎんだよ!」


その声と同時にガラスの割れる音。
トロフィー棚がスローモーションで倒れる──!


「何ィ!!」

更に一人がトロフィーに躓き、書類の入っている棚にぶつかり……プリントが宙を舞う──


「……アリス、悪りぃ……今夜は帰れる気がしねェ……」



✕  ✕  ✕


何だかよく分かんねーけど、アリスに告白された気がする。
どっかにヤツが隠れてんのかと思ったけど、どこにもいねーし。
ある意味、いつも以上に気まずいじゃねーか!


「オイ」
「は、はい」
「これじゃ、デデデデーじゃねーか」


否定すんのか?
認めんのか?
って、何を動揺してんだよ!
コレはデートになんのか、どうなんだよ!
ハッキリしろや!



✕  ✕  ✕


リゼルの言う、“デデデデー”って何?
しかも、すごく怒ってる気がする……

答えが……言葉が見付からず、気まずいまま家に着いた。
とりあえず、リゼルをリビングに案内する。


「お、お茶置いとくね」


そそくさと、お茶を置いてカレーを作りはじめる。
家にあげたけど……出来るだけ早く帰って貰おう……



✕  ✕  ✕


カレーの言い匂いが漂ってくる。別の甘い匂いも混じってんのか、お腹が余計に減ってくる。
匂いに誘われるように、台所を覗く。


「ぬわっ!!」


エプロン姿のアリスに思わず鼻血が──

見られる前にソファに戻らねーと。
慌てると不幸は続く。
──振り向いた所の壁に顔を強打。
流石の音にアリスが振り向いた。


「きゃ──」
「ちょ、まっ! 誤解!!」


鼻血で血まみれという情けない展開。

更に──


「ただいま──」
「ハルク!? あの、これは……誤解なの!」


ハルクには、アリスにボコられたという誤解まで生じた。



✕  ✕  ✕



何でよりによって、リゼルなんだよ!
まぁ、何もなかったみてェだし……


「はい。食後のデザート」
「お。チーズケーキか」
「今日はチーズの特売日だったから」
「だから、あんなに急いでたのか」
「はい、リゼルの分」
「いいのか、食べて」
「食べたら、さっさと帰れや」


折角、アリスと二人の時間だったのに。
ケーキは美味しいけど、納得いかねェ。


「テメェもな」


あぁ、そうか。
リゼルは知らねェんだっけ。
俺とアリスが(ある意味)一つ屋根の下だって事。


「何、笑ってるのよ……気持ち悪い」
「は? 気持ち悪いってなんだよ!」
「今、明らかに変な事考えてたでしょ」
「考えてねェよ!」


しまった……
喧嘩になったじゃねェか。
俺の馬鹿──

頭を冷やす為にリゼルと外へ出た。
こいつは単純だったが、アリスは一筋縄じゃいかなくて。
結局、仲直りは持ち越し。
悪いことは続くもんだ──




〈Invisible Crack〉



END.
(2021.12.20)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ