【アリスドール-another dolls-】(短編)

□Ishikusuhana
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放課後。
帰ろうと廊下を歩いていたら、リゼルの叫び声が聞こえた。声は保健室からだった。



「リゼル?何かあっ…」


ドアを開けて、中を見る。すると、リゼルが一番奥にあるベッドで押し倒されていた。しかも、相手は男の子である。大事なことだから、もう一度言います。
リゼルが半裸の男の子に押し倒されてました。



「アリス…」

「ごめん。お邪魔、だったかな…?」

「違ぇし!違ぇから!勝手にコイツが…」

「リゼルも喜んでたじゃん!」

「誰が男に押し倒されて喜ぶかよ!」


すると、リゼルを押し倒していた男の子は、苦虫を潰したような顔で呟く。



「んー、君はタイプなんだけどさ、何か今日は気分じゃないんだよなー」

「なら、さっさとどけよ!」

「痛て」


リゼルに叩かれ、男の子が小さく声を上げる。ベッドから渋々起き上がると、ドアの方にいる私をジッと見てきた。

な、何だろう?私の顔に何かついてるのかな…。目もそらさずにいると、男の子がニッと笑い出す。



「わかっちゃった。今日は女の子がいいんだ!」

「えっ…」


すばやくベッドから離れると、真っ直ぐに私のいる方に向かってくる。そして、目の前に立つ。



「ねぇ、君がおれの相手してよ?」

「嫌、です。私は……っ!」


その人に手を掴まれた瞬間、ぞわっと鳥肌が立った。嫌だ。触らないで。



「小さい手、可愛い」

「離してください!」


手を触られたと思ったら、今度はいきなり抱きしめられた。私はひっ…と悲鳴を上げる。だが、男の子は気にすることなく、抱きしめてくる。



「やっぱり女の子っていいよね。柔らかいし、イイ匂いする…」

「やだ!離して!」

「何で?二人で楽しいことシようよ」

「いや!わ、私…は」


怖い。この人、おかしい!話が通じないし。怖くて、震えが止まらない。



「アリスを離せ!バカ!!」

「リゼル、うるさい。おれはこの子を口説いてんの。邪魔しないでくんない?てか、アリスかー。名前も可愛いね」

「…っ!」


男の子の顔がゆっくりと近づいてくる。私は手を掴まれているため、逃げられない。力が強くて、私の力ではどうにもならない。抵抗出来ることは顔をそらすことだけ。

目をつぶって、私は祈る。誰か!!



「口説いてる?ソイツが嫌がってんのが見てわかんねェのかよ」

「っ!」


そんな声がしたと同時に引き寄せられて、目の前にいた男の子が薬品がしまってある棚にぶつかり、倒れ込んだ。幸い、薬品は落ちてくることはなかったが、すごい音がした。



「痛って〜」


男の子が痛がりながら、床から起き上がる。どうやらハルクが男の子を蹴り飛ばしたらしい。



「アリス。大丈夫か?」

「う、うん。ありがとう…」


良かった。
ハルクが助けてくれなかったら、今頃、あの男の子に…。その想像にゾッとした。

私から離れたハルクは、ベッドから落ちたリゼルを見て、呆れていた。



「お前もいんなら、何やってんだよ。この暴走野郎を止めろよな。…ったく」

「止めようとしたんだよ!そしたら、足、滑らしちまって…」

「鈍くさっ」

「うるせー!」


以前に比べたら、マシになった方だよね。あの二人。



「君もいい!」

「うわっ!なんだ、コイツ…」


蹴られたことを忘れて、男の子はハルクに近づく。



「おれ、君が相手ならMになるよ。今まではSの方が好きだったけどさ、君のお陰で新しい扉が開いちゃった!」

「気持ち悪い。オレ、男はお断りだっつーの!」

「試してみたら、変わるよ?今度はおれが教えてあげるからさ」

「いらねェし。オレは女しか興味ねェんだよ!」


すると、保健室のドアが開く。そこから顔を出したのは───



「今、すごい音しましたけど、一体、何の騒ぎです?」

「カルロ先生…」


やっぱり響いてたんだ。それはそうか。大分、大きい音だったし。蹴られた男の子はピンピンしてるけど。やっぱりおかしいと、体も何も感じないのかな?



「おや。皆さん、お揃いで。もしかして、またそこにいる“彼”が問題でも起こしましたか?」

「え…」


カルロ先生の言う“彼”とは、明らかにあの男の子を指していた。



「カルロじゃん。見逃してよー。おれ、そこの二人とヤりたい」

「二人??」

「そ。二人」


男の子の視線は、私とハルクに向いていた。それを見た先生はため息をつく。



「はあ。これで何度目ですか?」

「え?何度目??」

「前にも彼、数人の生徒を襲っているんです。男女関係なく。全部未遂でしたが。本当に懲りないですね…」


常習なの、この子!?本当にやれるなら、誰でもいいの?全然、反省もしてないし…。またやるよ。停学になってもおかしくないのでは?



「じゃあ、カルロが相手してよ!それで今日は我慢すっから」

「嫌です。お断りします。僕もハルクくんと同じで相手するなら女性の方がいいです」

「ちぇっ…」


男の子はカルロ先生に断られて、拗ねてしまったようだ。ああ見ると、さっきみたいな怖さは全然ないんだけど。



「あなたでしたら、相手をお願いしてもいいですね…」

「…はい?」


カルロ先生が何故か私にそう言ってくる。私が相手!?そう言われて、顔が真っ赤になった。

すると、ハルクが私とカルロ先生の間に入ってきて、私をカルロ先生に見せないように隠す。



「おい、そこの淫行教育実習生」

「……冗談ですよ。流石に実習中に教え子に手なんか出しませんから。そこまで女性に困ってもいませんし」


今、サラッとすごいこと言わなかった?
確かにカルロ先生なら、女の人は寄って来そうだよね。色気あるし。



「困ってないなら、アリスに構うなよ」

「君はまるで彼女のナイトですね。しかし、その点だったら、君も僕と同様ですよね?彼女でなくても問題ない。君の外見ならば、ね」

「うるせェな。てめぇに関係ねェだろ」

「余計なお世話が過ぎましたね。今回は引きましょう。ま、彼女が卒業したなら、話は別ですが」

「は?」

「えっ…」


それも冗談ですよね?
でも、カルロ先生、顔は笑ってるけど、目が笑ってないんだけど。



「アイツを見んな。ほら、行くぞ」

「ハルク…」


ハルクに手を引かれ、保健室を出る。一度、振り返ろうとしたら、後ろにはいつの間にかリゼルがいて、「振り返んな。前見てろ」と注意された。

カルロ先生は静かに笑っているだけ。


それから学園を出た私はハルク、リゼルと共に下校していた。



「本当にアイツ、油断ならねェ…」

「それって、カルロ先生のこと?」

「アイツ以外、誰がいんだよ。アリス。なるべくアイツに近づくなよ…」

「うん…」


カルロ先生にはあの男の子ほど、警戒することはないと思うけれど。ハルクはそう思わないらしい。



「そう言っても、アイツ、上手く自分の立場を利用して近づいて来そうだけどな」

「知恵は回りそうなんだよな…」


ハルクとリゼルがそんな話をしながら歩く。少し前までは感じられなかった二人の様子に、私は黙って見つめることしか出来ずにいた。





【END】
(2022.02.12)

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