【アリスドール-another dolls-】(短編)

□Anemone
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【side·T】


眠る彼女を見るのは嫌じゃない。ずっと眺めていられる。飽きなんて来ない。

でも、やっぱり彼女の声で自分の名前を呼んで欲しい。呼ばれると、自分の名前が特別に感じるから。



「リコリス…」


彼女の唇に触れる。おとぎ話にあった眠ってるお姫様に王子がキスをして目覚めさせる物語。あのようにリコリスが目を覚ましてくれたなら、どんなに幸せだろうか。

すると、ピクリと彼女の瞼が動く。そして、ゆっくりと目を覚ます。彼女の瞳に自分の姿が映る。自分の瞳にも彼女が映る。



「タスク…」

「リコリス!」


嬉しさのあまり彼女を抱きしめる。
いつぶりだろう。彼女がオレを見つめて、ちゃんと名前を呼んでくれたのは。



「タスク、苦しい…」

「ごめん。つい嬉しくて…!」

「タスク、寝てないの?」


リコリスがオレを見て、悲しそうな顔をする。だって、オレの寝ている間にキミが目を覚ましたら、キミは一人になってしまう。だから、いつ目覚めてもいいようにずっと起きてるんだ。

これくらい何ともない。キミを失うことに比べたら…。



「寝てるよ。なかなか眠れないだけ」

「…そう。それならいいのだけど」


本当のことは言わない。悲しませてしまうから。
それよりも今は、キミがまたいつ眠りに入ってしまうかわからない。

二人だけの時間を過ごさないと。



「リコリス。少し外に出よう?キミに見せたい花があるんだ」

「ええ」


リコリスを抱え上げて、部屋を出る。

花がたくさん咲いている場所にリコリスを連れてくる。それを見て、彼女は喜ぶ。



「綺麗ね。素敵な場所だわ…」

「良かった。リコリスが目を覚ましたら、絶対に二人で見ようと思ってたんだ」

「…ありがとう、タスク」


見つめ合い、キスを交わす。

何度も、何度も。

どんどん欲が出てくる。キスだけじゃ足りない。キミが欲しい。ひとつに繋がりたい。


だけど、オレの願いは叶わない。



「…時間切れか」


キスの途中で、リコリスはまた眠ってしまった。

短い時間でも幸せだ。
大好きな人といられるのだから。

どうか次に目覚めるまで、せめて素敵な夢を。



「おやすみ、リコリス…」


眠る彼女に優しいキスを落としてから、彼女を抱えて、その場を後にする━━━。



















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