Vampire

□Haluku U
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親父の手にアガットがいた。
オレの姿を見て、キュッ!…と鳴いた。



「アガット、返せよ!」

「まずは質問に答えてからだ」


親父からアガットを奪おうとした。しかし、上手く避けられた。ちっ。

きっとオレの返答次第ではアガットを殺すだろう。させてたまるかよ!小さい頃からずっと傍にいてくれた相棒を。

他のヤツは使い魔は使い魔としか考えてねェけど、オレは違う。

アガットはどんな時もオレの傍にいてくれた。アガットがいなかったら、生きていなかった。

それに…。





「……なんだよ」

「この家を出る理由はなんだ?」

「それは…」


アリスの血を飲まないようにするためだ。
これ以上飲んだら、オレはアイツを殺してしまう。殺したくなんかねェ。いくら運命の血を持っていても、飲み過ぎれば死んじまう。



「血を適度に飲まないと、理性を失って、本当の化け物に堕ちるぞ」

「…っ!?」


化け物。

だけど、アイツの血をもう飲まなくてもいいなら、オレは───


すると、親父の後ろにいたカルロがオレの方へやってきた。
コイツ、ニコニコと笑っているが、目は全然笑ってねェ。



「ハルク。運命の血が見つかってから、他の血を受け付けられなくなっただろ?」

「……」


否定はしねェ。
確かにあれからアリス以外の人間の血を飲まなくなった。飲めなくなったが正しいけど。

アリスの血を知ったら、もう他の血は飲めねェ。



「血を飲まなくなったからといって、吸血衝動は抑えられないよ。余計に欲しくてたまらなくなる。運命の血を見つけたなら尚更。抑えられなくなってきたところにアリスを見かけて、襲った。違う?」

「……違…っ……オレ…は」


違わない。

アリスを見かけた瞬間、体が動いていた。しかも、アイツは一人だった。絶好のチャンスだった。

空いてる部屋に連れ込み、嫌がるアイツを押さえて、首筋を噛んだ。


でも、何故か首筋だけじゃ足りなくて、オレはアイツを押し倒して、服を引き裂く。

アイツの体はどこからも甘い匂いがした。特に一番匂いが強かった場所に気がつく。
それはドク、ドクと脈をうち続け、ずっと動いている。死ぬ時以外、止まらない場所。心臓。オレはアイツの心臓の上の肌に歯をつきたて、噛みついた。



そしたら、思った以上に更に血は甘くて、うまくて、やめられなかった───


泣く声が聞こえても、夢中に貪った。



そして、気がついた時には、アイツが倒れていたんだ…。





「運命の血を持っていても、人間なんて、所詮は吸血鬼の餌だ。それ以外に何がある?」

「餌?」


親父がくだらないというようにそう吐き捨てた。アイツが餌…?





“ハルくーん!”


“アリスちゃん!”


“きょうは、なにしてあそぶ?”



幼い頃のアイツがオレを呼ぶ。嬉しくて、オレはアイツの元へ駆け出す。

ひとりぼっちだったオレにアイツは、手を差し出してくれた。

優しくしてくれた。

色んなことを教えてくれた。





「餌じゃねェよ!」


思わず反論していた。
餌じゃねェ。アイツは餌なんかじゃねェんだよ!!



「人間は吸血鬼の餌だよ。ハルク、何で否定をするの?」

「まさかとは思うが、あの娘に恋情など抱いてないだろうな?」

「違ェよ!」


アイツは、リク兄を選んだ。
オレよりも後に出会ったリク兄を…!



「なら、いい。お前にも将来は、純血種の娘と結婚させるからな。そのうち会わせる。さて、コレはお前に返してやる」


そう言って、親父がアガットを離す。自由になったアガットがオレの胸に抱きつく。



「キュッ!キューッ!」

「大丈夫か?」

「キュッ!キュッ!」


アガットがオレを心配していた。
大丈夫だというようにアガットを撫でていたら、アガットは泣いていた。オレの代わりに…。





いつの間にか親父もカルロもいなくなっていた。

結局、オレは家にとどまることを余儀なくされた。










「キュッ!キュッ!」

「……ごめんな。怖い思い、させちまって」

「キュッ!キュウ!」


もうオレにはアガットだけだ。

いつまでも昔に囚われてはダメだ。アリスを忘れなきゃいけねェ時が来たのかもしれない。



それなのに、忘れてはダメだとでもいうのか。アイツとの記憶が次々に浮かんでく。



「……どうすればいいんだよ!」


誰か教えて。

オレはどうしたらいい?





【END】

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