隠
□溶ける
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静かな部屋。
テーブルには、二人分の夕食がのっている。
福田は一人、先ほどまでここにいた人物のことを思う。
怒ったやろうな…。たぶん、もう二度とアイツがこの家にくることもないやろう。
明日も仕事があるし、後片付けをして寝なくてはいけないのだけれど、身体がどうにも動かなかった。
「これで、良かったんや」
福田は半ば自分に言い聞かせるように呟いた。
俺らが幸せになれるはずがない。
恋人になって、手にしたのは、幸福と、それよりもずっとずっと大きな罪悪感と不安感。
昔から女の子が大好きで、暖かい家庭を作るんを夢見てた徳井。そんな徳井から、幸せな未来を奪ったんは俺や。
――……おばちゃんに、会わせる顔がない。
実家に帰る度に、早く孫の顔を見せてくれ、と言われるんは、俺だけじゃないはず。
徳井と、徳井の家族の、健全な幸せを奪う権利は、俺にはない。
俺と違って、女の子もちゃんと好きになれる徳井。引き返すなら早いうちがいい……。
自然と焼酎に手が伸びた。コップを出すのももどかしく、煽るように一気にのむ。
医者に控えるように言われているけど、酒を飲まなくては夜の闇に飲み込まれそうになる。
喉が焼ける。強いアルコールが食道を通る時、焼けつくように痛んだ。
――身体に悪いから、ちゃんと割って飲むんやで。
ふと、そんな声が頭に蘇る。ごめん、徳井。俺は約束を破ってばっかりや。
空きっ腹に飲むアルコールは怖いくらいよく回る。立ち上がると目が回って膝を強打した。鈍い痛みがじんじんと俺を襲う。身体は相当酔っているみたい。
それやのに、頭は妙に冴えて、冷えきっている。
――もぉ〜、また何も食べずに飲んでる〜。せめて、なんか腹に入れなあかんで福。
うん。分かってる。ごめん徳井。
もう、別れたのに。これできれいさっぱり楽になれるはずだと思っていたのに。
蘇ってくるのは徳井のことばかり。
ああ――、
今夜もきっと、
眠れない―ー。
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