□溶ける
2ページ/2ページ



静かな部屋。
テーブルには、二人分の夕食がのっている。

福田は一人、先ほどまでここにいた人物のことを思う。

怒ったやろうな…。たぶん、もう二度とアイツがこの家にくることもないやろう。

明日も仕事があるし、後片付けをして寝なくてはいけないのだけれど、身体がどうにも動かなかった。


「これで、良かったんや」

福田は半ば自分に言い聞かせるように呟いた。

俺らが幸せになれるはずがない。
恋人になって、手にしたのは、幸福と、それよりもずっとずっと大きな罪悪感と不安感。

昔から女の子が大好きで、暖かい家庭を作るんを夢見てた徳井。そんな徳井から、幸せな未来を奪ったんは俺や。


――……おばちゃんに、会わせる顔がない。



実家に帰る度に、早く孫の顔を見せてくれ、と言われるんは、俺だけじゃないはず。


徳井と、徳井の家族の、健全な幸せを奪う権利は、俺にはない。


俺と違って、女の子もちゃんと好きになれる徳井。引き返すなら早いうちがいい……。

自然と焼酎に手が伸びた。コップを出すのももどかしく、煽るように一気にのむ。
医者に控えるように言われているけど、酒を飲まなくては夜の闇に飲み込まれそうになる。

喉が焼ける。強いアルコールが食道を通る時、焼けつくように痛んだ。


――身体に悪いから、ちゃんと割って飲むんやで。


ふと、そんな声が頭に蘇る。ごめん、徳井。俺は約束を破ってばっかりや。


空きっ腹に飲むアルコールは怖いくらいよく回る。立ち上がると目が回って膝を強打した。鈍い痛みがじんじんと俺を襲う。身体は相当酔っているみたい。
それやのに、頭は妙に冴えて、冷えきっている。


――もぉ〜、また何も食べずに飲んでる〜。せめて、なんか腹に入れなあかんで福。

うん。分かってる。ごめん徳井。


もう、別れたのに。これできれいさっぱり楽になれるはずだと思っていたのに。
蘇ってくるのは徳井のことばかり。



ああ――、


今夜もきっと、


眠れない―ー。





前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ