別室


□独占欲
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収録終わり。

先輩が田村の肩を抱いていた。


ただ、それだけのはずなのに。
何でこんなに、心が乱れるんだろう。




遅れて楽屋に入ってきた田村。へらへらと楽しげに笑っている。

「遅かったやん。何しとってん」

「ああ、ちょっと盛り上がってもうて」

盛り上がった。

……誰と?



「へぇー。楽しそうでええな」

「どうしたん川島。顔怖いで」

違う。
こんなことが言いたいんじゃないのに。
心の中でうずまく汚い感情が、そんな嫌味な言い方をさせた。

「お前、どうせこの後、飲みにいくんやろ?」

……あの先輩と。

「俺はこの後もネタ考えなあかんのに、いい気なもんや」

自己嫌悪に陥りながらも止まらない俺の嫌味。
一瞬、田村の顔が怯えたように曇った。


そして次の瞬間。
ポンと手をうち、ぱぁっと田村の顔が晴れる。

「お前、嫉妬してんねんやろ?」

「え?」

どきり、とした。
いつものこいつからは考えられへんような鋭さで、いきなり、核心を突かれたものだから。

「やっぱりなー。そうちゃうかと思ってん」

へらへらと笑う田村。

もしかして、こいつは俺の気持ちに気付いてたんか。
あまりの嬉しさに、鼓動が速くなる。


「かあしまも来たらええやん。俺が頼んだるから」

「………え?」

そして俺は固まった。

「え、俺だけ先輩に誘われたから、俺に嫉妬してたんとちゃうの?」

……アホや。やっぱりこいつはアホの田村やった。俺のドキドキを返せ。

俺は全身から力が抜けるのを感じた。
俺は畳にごろっと寝転がり、座ってる田村の顔を見上げた。


「たむちゃん」

「なに?」

「好きや」

一番ストレートに、告白をしてみたところで、

「おう!」

このアホは、その意味なんかちっとも分かってない。
俺の可愛い可愛い玄米。

俺が、うかうかしてる間に、こいつが他の男に取られてしまうんちゃうか。
そんな不安が一瞬頭をよぎった。


「田村」

こっちこっちと、手招きすると、内緒話でもあるんかと、田村は素直に寄ってくる。

田村の顔が近付き、息づかいが聞こえる距離まで来たところで、俺は田村のネクタイをつかみ、不意打ちのように唇をぶつけた。

「っん」

驚く田村の目がまん丸に見開かれる。

唇を舌でなぞり、中に押し入り、田村の舌をからめとる。

女、相手やったら腰の抜けるようなキス。
経験の乏しい、こいつやったら、効き目は抜群やろう。

「…ぷはっ」

「好きや」

目を潤ませ、肩で息をする田村に、さっきと同じ言葉をかける。

とどめとばかりに田村の濡れた唇をぺろっと舌で舐める。

さすがにアホのこいつでもその意味ぐらい分かるやろ。

相方、友達、今まで築いてきた関係をすべて失うかもしれない。
そんな覚悟で、臨んだ一世一代の告白。

お前を永遠に失うことになっても、目の前でお前が誰かに掻っ攫われるんを見てるなんてこと俺には耐えられへんから。

柄にもなく、少し泣きそうになった。
それやのに…。

「俺、結婚してんで?」

……ここまで、とんちんかんな返事が返ってくると、いっそ清々しい。

お前が結婚してることくらい俺かて知ってるわ。
っていうか、結婚してへんかったら、俺と付き合ってもよかったんか?
普通は、気持ち悪いとか、驚くとか、そんなんが当たり前やろ。


「ええよ。俺はお前が結婚してても気にせえへん」

「いや、お前が良くても俺はアカンよ。浮気になるやん。嫁に他の女と付き合ったら許さんって言われてるもん!」

「他の女と、やろ。男やったら問題ない」

「……え?そういうもんなん?」

「そういうもんや」

俺は考え込む田村の頬に手をかけ、目じりにキスをする。

「…………。あかぁぁん!違うやん!」

「なんや、突然でかい声出して」

俺は眉間にしわを寄せて、あからさまに不機嫌な声を出す。
それに一瞬ひるむ田村だったが、頭を振ってびしぃっと俺を指差す。

「俺は、ノーマルや!!」

………だから遅いねんて。今更やな、ホンマに。

「分かってるよ」

「…へ?」

またそんな間抜けな顔をして。

「そ、それにっ!お前は俺のこと好きかもしらんけど、俺は嫁のこと愛してんもん!!だからアカン!」

動揺して、立ち上がり、あたふたする田村を俺は落ち着かせるように正面から抱きしめた。


「なぁ、田村。俺は、お前がどんな女を好きになろうが、どんな女を抱こうが別にどうでもいいねん。けどな、」

田村を抱く腕に力を込める。

「お前を抱いていいんは俺だけや。お前が好きになっていい男は俺だけや」

ゆっくり田村から身体を離すと、途方に暮れた田村がいた。

「別に遊びでええねん。そんな重く考えんでも大丈夫や。今まで通り、嫁を抱いて、キャバクラ行って普通に生活したらええ」

「……」

「でも、俺以外の男に抱かれたりしたら許さん」

「…って俺抱かれるほうなん?」

そこ?とは思うがあえてつっこまん。

「だから、な…。ゆっくり考えて?」

「……お、おう!」

田村は慌てて部屋を出ていく。


なあ、たむちゃん。お前に俺のことしか考えられんようにしたるよ。
必ず、お前は俺のとこに戻ってくる。

だから、

待ってるで。いつまでも。



end
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