別室


□隙だらけ
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出番が終わり、楽屋で二人の時間。

田村はスーツを着たまま、ご機嫌でふんふん鼻歌を歌いながら、ジャンプをめくっている。

こんな間抜けな姿をたまらなく可愛いと思ってしまう俺はほとんど病気だ。

俺は田村の後ろに回り込み、田村を抱きしめるように体を密着させた。

「な、なんやねん川島!」

焦ったように身をよじる玄米。

「ええやん。俺もジャンプ読みたいねん」

しれっとそんなことを言うと、素直に納得してしまうアホの田村。

顎を田村の肩に乗せ、腕を田村の腹の方へ回して抱きついた。


「お前の心臓、めっちゃドキドキしとる」

からかうように耳元で囁くと、田村は耳まで真っ赤になった。

「お、お前がくっつくからやろ!」

焦ったように言い訳する田村。

「俺相手に、なんで緊張してんねん。もしかして俺のこと好きなん?」

「ちゃ、ちゃうわアホ!!」

俺が意地悪くからかうと、玄米は慌てて否定する。
そんな田村に、俺はすっと目を細めた。

「俺は好きやで」

俺はさらりと言い、田村の耳の後ろに息を吹きかけた。
田村の身体がびくっと震えた。


「お前は嫌いなんか?俺のこと」
目を伏せ、あからさまに傷ついたフリをする。

「好きや!好きやけどっ!でも、そういうことと違う!」

慌て弁解する玄米。
思った通りの反応に俺は非常に満足したが、あんまりからかって、後でへそを曲げられても嫌だ。


俺はあっさりと身を引き、田村から身体を離した。

その瞬間、ちょっとだけ寂しそうな顔をする田村を俺は見逃さなかった。

今すぐに、田村のすべてを奪ってしまいたい衝動に駆られるが、それは意思の力で、ねじ伏せて、俺は、田村の首元に手をかけた。

田村の悪趣味な柄のネクタイを丁寧にほどきにかかる。


「かぁしま。自分でできるて」

「ええから」

戸惑う田村を一言で黙らせた。

ネクタイをはずし終わると、今度はシャツのボタンを外してやる。
上から一つずつ、ゆっくり。


「ええ身体やな」

「一応、鍛えてんもん」

そんな会話をしながらついに田村は上半身裸になる。
悪戯をしてやりたいのはやまやまだが、ここで、変な警戒心を持たれてもつまらない。

俺はなるべく無関心さを装い、田村の私服を手に取り、脱がせた時とは打って変わって、やや乱暴に頭から服をかぶせた。

「うぉっ」

間抜けな声をあげる田村。
そのやや引き連れた服を、綺麗に整えてやった。

「川島」

「なんや?」

「なんか今日優しいなぁ?」

上半身だけ着替えが終わった田村は的外れなことを言う。

「たまには、こういうんもええやろ」

「おぉ…」

田村は、まだ釈然としない顔をして、動こうとしない。

「なんや。下もやって欲しいんか?」

挑発するように言うと、

「いいっいいっ。自分でできるっ!」

と、やけにムキになり、慌ててベルトを外し始める。




……エエ眺めやな。これが、俺のために脱いでくれてんねやったらもっとええのに。

俺にそんな目で見られているとも知らず、黙々と着換える田村。


「なぁ、」

「ん」

「この後空いてんねやったら、呑みに行かへん?」

久しぶりの田村からのお誘い。
俺が断るはずもなく。

「ええよ」

そう答えれば、今までされてたこともすっかり忘れて、嬉しそうに、にかっと笑うアホの玄米。
その無防備さはええとこやけど、俺としては、もうちょっと警戒心も必要なんちゃうかと思ってしまう。


「俺、玄関で待ってるから!着替えたら降りて来てな!」


そう言ってはしゃいで、勢いよく楽屋を飛び出した田村は、入り口で盛大に躓いたのだった。





end
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