別室
□アホやろ!?
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田村に仕事が入った。
キツイことでも有名な黄金伝説の一ヶ月一万円生活に、田村が挑戦することになったのだ。
本人はやる気満々で、ノリノリなのだが、俺としてはいささか不安が残る。
そして、その不安は見事、現実のものとなった。
「米と塩と油ぁ?なに?それだけなん?」
俺は楽屋で衝撃の報告をされることになった。
田村の作戦は、米塩油。この三つで一カ月を乗り切ろうという、なんとも過激な内容だった。
「人間、それさえあれば生きていけるんや!」
と、堂々と胸を張って大威張りの田村。
……何を言うてんの?アホの子ですか?
「お前、そんなん体壊すぞ」
「だーいじょうぶやって!」
楽観的な田村。
まあ、段ボールを食べたこともある超貧乏やった田村やし、番組からは、過激な節約術を期待されているんもわかる。
けど、そんなんで一カ月生きていけるわけないやろ。
身体壊したら元も子もないやろうが。
…まぁ、一言でいえば心配なわけで。
「無理はすんなよ」
「おう!」
一応くぎは刺しておくが、全然分かってへんような田村に俺は内心大きくため息をついた。
一ヶ月一万円生活、五日目。
田村は大分やつれてきた。
まだ、米と塩と油で粘っているそうなので無理もない。
野菜も肉も一切なく、米だけをよく五日も食べ続けられるものだと感心する。
顔が黒いので、誰も気づいてはいないが、顔色も悪い。
楽屋でもそもそとおにぎりを食べる姿はあまりに哀れだ。
「田村」
「なん?」
「ちょっとついてきて」
俺は黄金伝説のスタッフがいないことを確認して、田村を連れだした。
ほとんど使われることのない、局の会議室。ほこりっぽい空気に後ろで田村がむせている音が聞こえた。
「こっちこい」
「なんやねん急に」
田村の声は訝しげだ。
俺は、田村を壁際に立たせて自分はその正面に立った。
俺よりわずかに背の高い田村の瞳が、いつもと違う雰囲気による緊張感で揺らぐのが見えた。
俺は、そんな田村の反応に気を良くして思わず笑みを漏らす。
俺はポケットに入れてきた錠剤を、二三粒、口に含み、続けてペットボトルの水を口に含んだ。
田村は未だ俺が何をする気なのか分からない様子で、きょとんとしている。
俺は、田村を壁に押し付け、そのまま強引に唇を重ね合わせた。
「っ!??」
田村は俺の腕の中で驚いてじたばたと暴れるが、そんなものはほとんど抵抗にすらなっていない。
なかなか唇を開けないので、じれた俺は開いた右手で、ひょいと玄米の鼻をつまんでやる。
すると、息の出来なくなった田村は簡単に口を開けた。俺はそのすきに、錠剤と水を口移しで、田村の口内へ流し込んだ。
田村が、反射的にそれをごくりと飲み込んだのを見て、俺は田村からゆっくり離れた。
「…かぁしま。なに飲ませてん…!」
息を切らす、田村に俺は優しくほほ笑みかける。
「ただのビタミン剤や。お前、栄養不足やぞ」
「何でこんなことすんねん!!」
田村が涙目になって怒る。ちょっとやりすぎたか、と反省しようと思っていると。
「あー、もうこんなん反則になるやんかぁ〜。俺、一ヶ月一万円生活の最中やのに〜」
頭を抱えてその場にうずくまる田村。
え?そっちですか?怒るとこ間違えてません?
俺は内心ツッコミながらも、可愛い田村の様子に心を弾ませる。
田村との初めてのキスは大成功。田村はキスされたことの意味を、多分よく分かってないと思うけど。
田村の唇は味わい尽くしてやったし、サプリも飲ませたし、当初の目的は果たした。
「ばれへんかったらエエねん」
「かぁしまのアホ!」
まだ、怒っている田村の耳元に俺は口を近づけた。
びくっと身体をこわばらせる玄米。
「お前がちゃんとしたもん食わな、またされることになるで」
俺に出来る限りの、低音美声ヴォイスで囁く。
たちまち、顔を赤くする田村。
「分かった?」
そう言ってにっこり笑いかければ、
「わかったっ。わかったから!」
そう言って慌てて部屋を出ていく田村。
一人残された俺は、田村の唇の感触を思い出しながら、ゆっくりと唇をなめた。
そのあと、田村は慌てて、食材を買い足すためにスーパーへ走ったとか。
end
黄金伝説楽しい!!
中途よりも、エロいキザデレデレな感じでお送りしております。
川島さんは、いつ告白するんでしょう?
片思いの間も楽しんでそうですけどね、川島さんは。
感想お待ちしております。