別室
□こっち向いて
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俺が、田村に告白したのは、確か三日前。それやのに、アホの玄米は警戒心もゼロでふんふん鼻歌を歌って、寝そべっている。
「かあしまー、どっちがタイプ?」
グラビア紙を掲げて、のんきにそんなことを言う。
「右」
「えー、絶対左やん」
いつもと同じ過ぎて目眩がするくらい。
あれ、俺、告白したよな?
「たむちゃん」
「なにー」
……ほんまに何も考えてないかのような能天気な返事。大丈夫か…。
正直、田村が俺のことをどう思っているのか気になる。
しかし、ゆっくり考えて、と言った手前、返事を催促するのもどうか…。
「……。アホ」
「え?なんで!?」
「一生考えとけ、ごぼう野郎」
「かあしま、右の子そんなに気に入ったん?」
アホの子は、検討違いもええとこな、アホな質問をしてくる。
まあ、そんなところも愛しいのだけれど。
ああ、そんな間抜けな顔をされると苛めたくなってしまう。
「田村」
「ん」
アホのごぼうが振り向く。
「可愛い」
途端に顔を真っ赤にして、田村は口をモグモグさせる。
どうやら、俺からの告白を忘れているわけではないらしい。思っていた以上の玄米の反応に、俺は内心、にんまりと笑った。
「…かあしま、」
いつになく、困ったような声で俺の名前を呼ぶ田村。そんな表情にそそられてしまう俺は、異常だと思う。
「なに」
あえて、冷静な声で答えると、田村はさらに困ったように眉を八の字にした。
「……俺、可愛いか?」
………。とんちんかんな玄米の発言にも、いい加減慣れてきたと思っていたが、コイツはいつも俺の予想の斜め上をいく。
「かわええよ。アホなところも、間抜けなところも、ぜんぶ」
「それ、悪口やん!」
すかさずつっこむ田村。
でも、それが事実なのだからしょうがない。
「俺、男やねんで?」
「知ってるよ?」
「………」
必死の反論を試みた、アホのごぼうは、それだけで黙りこんでしまった。そもそも俺に口でかなうはずがないやろう。
勝算もなしに挑んでくるアホさが、田村らしくて思わず笑ってしまう。
「たむちゃん」
「なに」
「好きや」
俺は田村に身体を近付けた。顔の距離がいっきに縮まり、アホの田村にも俺がしようとしていることがわかったはずだ。
一瞬怯んだように顔を強張らせたから。
逃げる時間はたっぷりと与えた。田村が俺を拒絶しようとすれば、簡単にできたはずだ。
しかし、
「…ん」
意外にも田村はそれをしなかった。
俺は、田村のでこに、触れるだけのキスをする。
ぎゅっと目を瞑ってそのキスを受けた田村。その反応が、うぶな中学生みたいで、愛しさが募った。
……なあ。なんでそんなにかわええの?
「…かあしまのアホ」
じと、とした目で俺を見て、田村はそんな生意気なことを言う。
そんな目をしたところで、俺をますます煽るだけやというのに。
…まったく。
「アホはお前や」
俺をこれだけ惚れさせたお前が悪い。
お前が本気で嫌がるなら、俺だって無理強いはせぇへん。でも、そういうわけじゃないやろ?
お前は、俺から逃げへんかった。
アホな田村のことやから、人の気持ちにも、自分の気持ちにも人一倍鈍感やから、攻略には時間がかかるやろうけど。
お前は、俺のこと、嫌いじゃないはずや。
ああ、だから早く。
俺のものになってくれ。
end
がんばれ川島君!