□溶ける
1ページ/2ページ



それは、何気ないいつもの会話の中でのこと。


「―…そんで、そしたらアイツが…、」

「徳井、あんさ、」

俺の言葉を遮って、福田はいつもより硬い声を出した。

「なん」

「別れよ」

……一瞬、何を言われたのか分からなかった。
遅れて、その意味を脳が理解する。

「は、」

言葉にならなかった。かろうじて漏れたのは、動揺で上ずったような吐息。

「俺ら、もう無理や。しんどい」

俺とは反対に妙に冷めた目で、そんなことを言う福田。言いようのない恐怖と怒りが、俺を襲った。

「そんなんで、俺が納得すると思ってるんか」

出た声は、自分でも驚くほど凄みを帯びていて、福田が怯えたように顔を歪ませる。
だが、その瞳は揺るがなかった。

「もう、別れたい。普通のコンビに戻ろ」

福田は寂しげに笑って、別れ話を繰り返した。

目眩で頭がくらくらした。

「お前、本気で言ってるんか」

「うん」

長年の付き合いから、その言葉にウソがないことはすぐにわかった。

「お前、俺が嫌いになったんか」

「そや」




………福田。

なんで、



そんなウソをつく?




「ウソつくな!」

思わず声が大きくなった。顔は怒りで歪んでいたはずや。
気付けば俺は福田の胸ぐらをつかんで、睨み付けていた。

「ウソと違う!徳井なんか嫌いや!」

普段温厚な福田がヒステリックに叫んだ。それはまるで悲鳴のようで、俺の心を締め付けた。

「何年、一緒におると思ってんねん!そんなことで、誤魔化されると思うな!」

「俺は、何年一緒におったかて、お前のことなんてちっとも分からへん!」

福田は俺の手を振り切り、俺から逃げるように遠ざかる。
ふと、気付くと、福田の頬は涙で濡れていた。

「…もう、疲れた」

福田の無気力な呟きに、俺はそれ以上何も言うことができなかった。







次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ