書籍

□退院
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ようやく退院が決まった。
すぐに復帰できるわけではないものの、やはり嬉しい。

今日はマネージャーが来れなかったため、一人で病院の外に出て、タクシーを呼ぼうと携帯を開くと、後ろから軽快なクラクションの音が聞こえた。

振り返ると、徳井が満面の笑みを浮かべて、車の中で手を振っていた。

「来るんやったら言っといてや。仕事は?大丈夫なん?」

助手席に乗りこむなり、可愛くない言葉が飛び出す自分。

「ん、驚かそ思て。退院おめでとう」

そう言って徳井はにこっと笑った。

一か月ぶりに合う徳井は、映画のために金色に髪を染めていて、少しやつれた顔をしていた。

一人での仕事は何かと気苦労も多かっただろうに、徳井が電話をかけてくるときはそんなことを微塵も感じさせなかった。
けれど、このやつれた顔がこれまでの仕事の大変さを物語っているような気がして胸がつまった。


俺は横で鼻歌を歌いながらハンドルを切っている徳井の顔を盗み見た。

見慣れているはずの徳井の横顔なのに、なぜかいつもより男前に見えてどきどきしてまう。
今まで、一カ月単位で会わなかったことなんて大学のとき以来で、なんとなく気まずい。

俺の家までの道が妙に遠く感じた。



「福ちゃーん!!」

そんな俺の戸惑いを知ってか知らずか、徳井は家に着くなり俺に抱きついてきた。

「うわっ」

一か月寝たきりやった俺の体は、徳井の体重を支えることができず、後ろに倒れてしまう。

すると、徳井が抱きついてきた張本人にも関わらず、妙に慌てて俺の腕を強くひき、胸の中に俺の体を受け止めた。

「ふく、痩せたな」

徳井は俺を腕に抱いてしみじみとそう言った。

それから徳井は、少し体を離して、こっちが恥ずかしくなるぐらい、俺の顔をまじまじと見つめた。

「なんやねんっ」

すると、徳井は嬉しげにニカニカ笑って、なんも、と答えた。

そんで、徳井はすっと離れて行ってしまった。それがちょっと寂しかったりするのだが、そんなこと言えるわけもなく。


少し疲れてきたので、ソファに横になっていると、妙に優しい手つきで、俺の前髪を払ってくる。

「どうしたん?」

と訊けば、なんも、と言ってまたニカニカ。

その後も何かと構ってくる徳井に俺は戸惑いっぱなしや。
こんなんずるいわ。


その夜、結局俺の家に泊まることになった徳井は、狭いからイヤやと言う俺に構わず、さっさと俺のベッドにもぐりこんできた。

シングルベッドに二人のおっさんが入れば、なかなかの狭さで、そこから落ちないように寝ようと思えば、相手に密着するしかない。

徳井は疲れていたのか、布団に入るなりすぐに寝息を立て始めた。
俺は寝返りを打って、徳井と向い合せになり、まじまじとその顔を見詰めた。
綺麗な肌が、暗闇の中に浮かんで見えた。

「ん、ふくぅ」

徳井が身じろぎをしてぼんやりと目を開ける。

「ごめん。起こしてもうた?」

すると徳井は自分の腕の中にいる福田を見つけて、嬉しげに笑った。

「ふくが俺の腕ん中におるぅ…」

そして、そのまま寝ぼけて眠りに落ちてしまう徳井。

残されたのは耳まで真っ赤にした福田。


なあ、徳井。俺、今気付いたで。お前、俺の退院のこと、そんなに喜んでくれててんな。
俺が久しぶりに会うお前に緊張してるんなんかお構いなしに、俺と会えたんを喜んでくれててんやな。

なあ、俺かて嬉しいよ。徳井に会えて。それを言葉にせんだけで、きっと同じかそれ以上に嬉しいよ。


その想いを言葉で表すことのできない福田は、眠りこけている徳井の額にそっとキスをした。


今までありがとう。これからもよろしくな徳井。




なんか、よく分からない話になってしまいました。
舞様からのリクエスト話でしたがうまく書けたでしょうか。期待はずれだったら、申し訳なさでいっぱいです。
楽しんでくれることを祈りつつ。

駄文にお付き合いくださり、ありがとうございました。

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