書籍
□感謝
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あの日、ホテルで俺と徳井はキスをした。
今でも信じられんけど、それは紛れもない事実で。
色んなものが徳井の熱で溶かされてしまった気がした。
幸せな夜。
けど、俺らは今もキスどまりの微妙な関係のままや。
こういう関係も嫌いじゃないけど、なんとなくふわふわした、不安定な立ち位置。
徳井はこのことどう思ってんのかな。
「ふっくちゃーん!なにぼーっとしてんの?」
徳井が俺の頭にぽんと大きな手をのせてくる。
そんな何気ないスキンシップでも、あの日の夜のことを思い出して心拍数が上がってきてまう。
「あれ?福ちゃん、顔真っ赤やん!さてはいやらしいこと考えてたな?」
いつもはさらっと流せる徳井のからかうような言葉も、今日はあながち外れていないだけに動揺してしまう。
「アホ!そんなこと言ってる間に仕事せえ!」
怒鳴ってみたけど、徳井はちっともこたえてない。むしろ、満足そうににやにや笑ってる。
…俺はもう一生徳井にはかなわんのやろな…。
今からの仕事はKBS京都のスタジオでラジオの収録をすること。その後は関西ローカル番組のロケが一つ入っている。
俺は割とこのラジオの収録が好きだったりする。
基本、徳井と二人でうだうだ喋ってるだけの番組やし、割とリラックスして出来る仕事だ。
それに、俺らが持ってる番組の中で、最も長く続いている番組なので思い入れも強い。
「さぁ、始まりました。キョートリアル!」
収録が始まると俺も徳井も仕事の顔になる。
けど、ラジオの収録ということもあり、徳井はコンタクトではなく黒縁めがねで来てる。
俺は向かい合って座っている徳井の顔をまじまじと見つめてしまった。
斜め下から見る徳井の顔は時々本当に、はっとするくらいカッコいい。
俺は時々、こいつの隣に立っていいのかと怖くなる時がある。
お笑いのセンスのある徳井。男前な徳井。
それに対して
一般人と大して変わらへん俺。平凡な顔した俺。
今までは相方として、自分が足を引っ張ってるんじゃないかと思っていた。
けど、今はそれに加えて、恋人として俺は徳井に釣り合うんか、と思っている。
不安なことばかりが増えていく。
徳井とキスをした夜、徳井に『キスの先までやってみぃひん?』と誘われた。
俺はそれを冗談として流してしもうた。
けど、ほんまは分かっててん。それを徳井が本気でいうてたってこと。
キスの先に何があるんかは分からんけど、その先まで行ってしまったら、もう戻ってこれなくなる気がするねん。
そう思って怖くなった。
楽な方に楽な方に流れて、今の中途半端な関係をずるずる続けてる。ふわふわして不安定な関係。
俺、逃げてばっかりや。
一時間足らずで収録は終わった。
イヤホンをはずして、机の上に散らかった書類を大雑把にまとめていると、突然、両頬を徳井の手で、ぱちんと挟まれた。
「いったぁ。何すんねん!」
「福」
「な、なにぃ」
「お前、またネガティブなこと考えとったやろ」
「……」
思わず絶句する。
「お前の顔見てたら分かるよ。何年一緒におると思うてんの」
黒縁めがねの向こうには、まつ毛の長いぱっちり二重の徳井の目が真剣に俺を覗き込んでた。
「何をごちゃごちゃ考えとったか知らんけど、あんまり焦るなや。何度も言うてるけど俺、待つし。俺はどんな福ちゃんでも大好きやから」
徳井はいつでも俺の欲しい言葉をくれる。
優しいなぁ。
俺、単純やから、そんなに優しくされたら純粋に感動してしまいそうになるやん。
「福田」
徳井のいつになく改まった調子の呼びかけに伏せていた目をあげた。
その端正な顔がぐっと俺の方に近づいてきたかと思うと、俺の唇でちゅっとかわいらしい音が立った。
「ラブ注入」
徳井がにこっと笑った。
キスをされたと気付いたのはしばらくたってから。
「…って、アホかぁぁ!誰かに見られたらどうするんじゃぁぁ!しかもそれ後輩のネタやろうが!」
「だって福ちゃん元気ないねんもん。これで元気でたやろ?」
全く悪びれる様子のない徳井にイライラ指数はどんどん上がっていく。
けど、徳井の言うとおり、ネガティブな気持ちはどこかに吹っ飛んでしまったようで。
「…行くで、徳井!今からロケやろ!」
俺は恥ずかしさを紛らわすために、乱暴に鞄に持物を詰めると、さっさとスタジオを後にした。
徳井の前では絶対認めたくないけど、徳井の『ラブ注入』が、俺にとって最大の元気出す薬になったみたいや。
徳井。お前が待ってくれるって言うたんやからな。責任とれよ。
俺、きっとお前のことめっちゃ待たすと思うけど、嫌にならんといてな。
お前のこと好きなんは間違いないんやけど、気持ちの整理がなかなかつかないねん。
でも、焦らず行くわ。一歩ずつやけど、ゆっくり歩み寄れるように頑張るから。
だから、それまで浮気せんと待ってろよ。
約束やからな。
end
うだうだでした。話が繋がってるような繋がってないような…。
っていうかネタパクリはだめですね。だめですよ。反省します。
駄文にお付き合いいただきありがとうございました。