書籍

□風邪
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「ちょ、徳井、何してるん!!」

「え?服、脱がしてるんやけど」

「いや、そんなん見たらわかるけどっ?」

すると、徳井がにやあと口角を釣り上げた。
うわー、これいやらしいこと考えてる時の徳井の顔や。

「なに?福ちゃん期待したん?ちゃうで。寝間着に着換えな、寝にくいやろ、と思うて」

あ、そういうことな。よかった。

「ほら、脱いで」

「ちょ、自分で出来るって。やめて。しかもなに乳首触ってんの?」

「イヤやな。当たっただけやん」

「ウソつけ」

そんなこと言ってる間も、俺は半裸なんや。さすがに寒い。

「ホンマにやめて。もうアカン。寒い」

どんなに悪ふざけしていても俺が本気で嫌がったら、徳井は絶対それ以上、やらない。
テレビの罰ゲームとかでもそれは一貫している。

俺が本気でやめてと言ったらすぐに引く。
この時もそれは一緒だった。
さっと引いて、手早く寝間着を着せてくれると、そのまま俺を布団に押し込んだ。

布団はひんやりと冷たくておぞけが走るがぐっとこらえる。

「福ちゃん、なんか食べたいもんある?俺作ったるで」

「もう、エエって。普通に寝てたら治るから。それよりうつるから、はよ帰った方がええで」

俺は気恥ずかしさを紛らすためにやや邪険に言った。

「福ちゃん!!」

徳井がニコニコ顔で大きな声を出す。

「な、なにぃ」

そのあまりの嬉しそうな様子にこっちがびっくりする。

「病気の時くらい甘えぇや」

ああ、そんなエエ声で言わんといて。俺の心臓がどくどくしだすやん。
…なんなんもう。すっかり徳井のペースや。


「ほら、あーんして」

当たり前のようにお粥を食べさせようとしてくる徳井。

「アホか」

俺は徳井の手から匙と椀をひったくった。

「あ、ふうふうせなヤケドすんで」

慌てた徳井の制止の言葉は一歩遅かった。

「っあっつぅ」

それ、もっとはよ言うて欲しかった。

けど、徳井の作ってくれたお粥は文句なしにおいしかった。
一応、こいつも自炊しとるからな。
俺の料理の腕には負けるけど。


その後も、徳井のセクハラまがいの行動は続いたものの、基本的にはきちんと看病してくれた。

徳井って、実はめっちゃ優しかったりすんねん。
俺、こういうところに惚れたんかな。
あれ、俺今、めっちゃ恥ずかしいこと考えてない?



夜、結果的に俺のうちの泊まることになった徳井は俺のベッドの横に布団を敷いて横になっていた。

「福ちゃん、もう寝た?」

徳井が起き上った気配に俺も目をあける。

「ん、まだ起きてるよ」

豆電球のぼんやりとした赤い光の中で、徳井の顔がぼんやり見えた。
ぎしっとベッドがきしみ、徳井がベッドのはじに腰かけたことを知る。

「なあ、俺、福ちゃんが何を迷ってるんか、大体は分かってんねん」

「……」

「怖いんやろ?」

「……」

なんで徳井はこんなに俺のこと知ってるん?
三十年近く一緒におっても、俺は徳井のこと全然分からへんというのに。

「でも、俺諦めへんからな。福ちゃんがどう思っていようが俺の気持ちは変わらへんで!」

「…それは、なんなん?」

「ん?宣戦布告。今日は福ちゃんが俺のこと嫌いじゃないってことが、確認できたし、俺絶対福ちゃんを落として見せるから」

そんなことせんでもなぁ、俺はとっくの昔に落とされとります!
それでも、不安なものは不安やねん。


「怖い?」

徳井の声が優しくて泣きそうや。

「ぅん…」

「大丈夫や。俺、福ちゃん一筋やから。な、信じて?」

「徳井」

「ん?」

「好きや」

徳井が少し驚いたような顔をする。

「それは…、こないだの返事と思ってエエの?」

「エエよ」

徳井が満面の笑みを作って、布団の上に出ていた俺の手を握った。
徳井の顔がゆっくりと近づいてきて、俺は思わず、ぎゅっと目をつぶった。


「福ちゃん、大好きや」


徳井の美声が耳元で聞こえた。
徳井がすっと離れて行った気配がして、俺はようやく目を開いた。
満足そうに笑っている徳井の顔。

すっと自然に伸ばされた手のひらが俺の額を覆った。

「また、熱上がったな。氷枕変えよか」

…熱が上がったとしたら、お前のせいや。


明日は滅多にない休み。徳井、明日もここにおってくれる?

恥ずかしいからこんなこと絶対本人には言われへんけど、俺、お前のこと好きすぎる。

「おやすみ福ちゃん」

「ぅん」

おやすみ、徳井。明日もまた会おな。




end.


乙女な福ちゃんでした。結局、福ちゃんは徳井君に振り回されっぱなしです。
徳井君との関係を壊すのが怖い福ちゃんと、その迷いを理解している徳井君。
言わずと知れたことですが、徳井君がそれを理解しているのは徳井君自身がそれで一度悩んでいるからですね。
徳井君が悩んだのはほんまに一瞬なんですが。
徳井君は、見た目よりも福ちゃんのことを心配してます。心配のあまり腹が立ってくるというアレですね。
駄文にお付き合いくださってありがとうございました。
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