◆TREASURES
□ORANGER なおさま VD小説
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【帰り道で】
はらはらと舞う真っ白な雪を見上げて、はぁっと手に息をかける。
まさかこんなに降るとは思ってなくて、傘を持ってこなかった。
だからといってここでこうして眺めていても仕方ない、ゆきんこになりながら帰るか、と覚悟を決めて昇降口に立つ。
「楓か?」
かけられた声に振り向くと、龍馬さんが首を傾げて立っていた。
「傘無いんか?」
「うっ…はい、実は…」
「こりゃいかん!この傘使い」
差し出された折り畳み傘は、どう見ても1つしかない。
「だめですっ!そんなことしたら龍馬さんが風邪ひいちゃいます!」
「けんど…ワシは楓が風邪ひくほうが嫌じゃ」
嫌、って言われても…
どうしようか、と困ってしまう。
「ほんなら、駅まで送っちゃる」
「えっ、いいんですか?」
そっちの方が濡れなくて済むし、何より傘を借りるわけにはいかないから。
「行くかのっ」
バサリと傘を開くと、やっぱり折り畳み傘は小さくて。
くっついて歩かないと、傘の意味が無さそうだ。
寄り添って歩くと、自分の肩が龍馬さんの腕にぴったりとついてしまい、龍馬さんの腕の熱が伝わってくる。
このまま、こうして居たいけど…
「あの、龍馬さん」
覚悟を決めて立ち止まるわたしに合わせて、はて?と立ち止まる龍馬さん。
小さな傘の中で向き合って、龍馬さんを見詰める。
「チョコ…もらってくれませんか…?」
コートの大きめのポケットから、チョコレートを取り出す。
「ワシにかっ?!」
にししっ、と顔を染めながら、受け取ったチョコレートをまじまじと見る。
「ありがとう、楓」
そう言って、大事そうに、内ポケットにしまった。
「そこだと溶けちゃいますよ?」
「もう溶けちょるっ」
「えぇっ!!そんなまさ…」
周りからちょうど2人の顔が隠れるくらいまで傘を低くして、
ちゅ、
と唇が触れる。
「…っ!」
「今日は暖かい日じゃ」
傘を上げて、にしし、と笑う龍馬さんの頬に降る1粒の雪は、一瞬で溶けた。
「のう楓、明日から毎日、傘を忘れてくれんかのう?」
龍馬さんからのそんな問い。
返事は、もちろん…
終幕