◆TREASURES
□ORANGER なおさま VD小説
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【校門で】
校門へ向かう並木道。
落葉樹の枝に積もる雪が白いトンネルのようになっている。
そこを並んで歩く左肩から、この景色に相応しくないどんよりとした空気が伝わってくる。
「た、高杉さん…?どうかし…」
「どうしたもこうしたもっ!!」
くわっと目を見開いてわたしを見て、またしゅんとしてしまう。
「いや…なんでもない」
ガクリと肩を落としたままの高杉さん。
そんなあからさまに落ち込んでいて、何でもないわけないでしょうと言いたくなる。
でも。
桂さんが、頑張れっ、と気を遣ってくれて、せっかく一緒に帰ることができたわけで。
今なら渡せるかな、とポケットからチョコを取り出す。
「なぁ楓…」
「ハッピーバレンタインですっ」
「え?」
高杉さんはピタリと歩を止めて、目を見開いたまま動かない。
差し出したままの手に乗るチョコレートが、少し震える。受け取って貰えないかもしれない不安と、恥ずかしさで。
「あのっ…」
「俺にかっ?!」
こくこくと頷くと、
「すっげー嬉しいっ!!」
「わっ!」
ぎゅーっと抱きしめられた。
こんな道の往来でっ!
人が多い所でっ!
でも高杉さんはそんなこと何にも気にしてなくて。
「ありがとうなっ、楓っ!!」
顔を赤く染めて、大きく笑う顔を見たら、わたしが今考えたことなんて、どうでもいいことで。
「もらって…くれますか?」
「当たり前だろっ!」
もう一度ぎゅっとすると、帰るかっ、という言葉と同時に左手から伝わる熱。
「はいっ」
きゅ、と握り返して、並んで歩き始める。
「あ」
ふと校門で立ち止まって、がさごぞと自分の鞄を漁る高杉さん。
そして、じゃーん、と言いながら取り出したポッキー。
「ポッキ…ん!!」
1本口に入れられ、質問も抗議もできない。
「ポッキーゲームしようと思って持って来たんだ!」
「!!」
右手にはスクバと左手には繋いだ手。
ヤバい!!
よく分からない身の危険を察知して、こうなったらさっさと食べて抗議してやろうと、パクパクと食べ進める。
必死に食べ進めて、漸くクッキーの部分だ、と安堵する。
ポキッ
「──っ!!!」
わたしの…わたし達の周りだけ時が止まってしまったように感じた。
ちゅ、と軽い音がして、顔に影がかかる。
「楓は無防備過ぎるんだよっ」
鼻と鼻とがくっつきそうな距離で覗き込む顔が、あんまりにも甘くて。
怒ったような、困ったような、照れてるような…
「ポッキーゲームなんて思いつかなきゃよかった…」
「ぇ?」
何か呟いたけど聞き取れなくて、その後も、何て言ったのかは教えてくれなかった。
終幕