◆TREASURES
□詩さま 「深いところへ」
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「杏絵…」
「はぁ…っ」
晋作さんと恋仲になって結構経ったけど、啄むような甘いキスにも、噛みつくような激しいキスにも、なかなか慣れなかった。
最初から激しいわけではなく、触れるだけの軽いキスからだんだんと深くなっていく…晋作さんの事しか考えられなくなるような切ないキスを晋作さんはしてくる。
こんな事になったのには訳がある。
今日は2月14日。あたしが住んでいた時代なら本当はバレンタインデー、所謂女の子が好きな人にチョコレートをあげる日だ。
その事を晋作さんに話してスクールバッグに残っていた唯一のチョコレートを晋作さんにあげたらこうなった…、という訳だ。
「口、開けろ」
言われた通りに少し口を開けると間を割って晋作さんの舌が入ってきた。晋作さんのキスに溺れる…、幸せでいっぱいだった。晋作さんがさっき食べた甘いチョコレートの味が晋作さんの舌を伝わって口いっぱいに広がる。
唇を離して見上げれば優しく微笑む晋作さんがすぐそこにいる。その笑顔が愛しくて…今度はあたしから口づけた。
「杏絵…そんな事したら止まらなくなる…」
「…んっ」
スッと優しく寝かされて晋作さんと天井しか見えなくなった。
そしてまたキスの雨が降る。唇だけでなく瞼に、おでこに、髪に、頬に晋作さんの唇が触れる。その雨に応えるようにあたしは晋作さんの首に腕を回した。
「お前…可愛すぎるぞ…!」
はぁーっと深いため息をついてあたしをぎゅっと抱きしめた。
「好きだ…、杏絵」
「あたしも…好き…」
晋作さんの低い声が耳をくすぐる。あたしもぎゅっと抱き締めて、大好きと答えるとそれを合図にするかのように帯がしゅるっと緩み、唇はあたしの首へと移動した。
「愛してる…」
「あたし、も…っ」
「忘れられない夜にしてやる」
晋作さんはそう言ってあたしの唇をまた塞いだ。あたしは全身で晋作さんを感じるために目を閉じた。甘い甘い夜の始まりだった。
2011.02.13