◆TREASURES

□oranger なおさま 相互記念小説
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朝の通勤時間帯のバス。
あいつはいつも立っている。
同じ場所に。


だから、俺も立っている。
あいつの隣に。


"あみ"


鞄のストラップに書いてあった。
おそらくあいつの名前は、あみ。
俺の嫁に相応しい名前じゃないか!


…まぁ、まだ話したことはないんだが。

ここ3ヶ月間、一度も。







会社のデスクから下を見ていたら、前の花屋にあみがいたんだ。

所謂一目惚れってやつ。


それから、近くのバス停を片っ端から調べて、使っているバスを発見した。
だから、帰りに乗り合わせて降りるバス停を調べた。

次の日は、何時に出勤するか調べようと、朝6時からバス停のベンチに座り続けた。

さすが俺様何様晋作様!
作戦は完璧。
ちゃんと同じバスに乗り、隣に立つことが出来た。

見たかっ、俺の実力っ!!


本来10分でつく会社まで、毎朝30分かけてそのバス停に向かって20分バスに揺られた。

帰りの時間はあまり合わないから、デスクから後ろ姿を見つめた。

それがかれこれ3ヶ月。
まだ一度も話したことはない!!



「世間様ではソレをストーカーと言うんだよ、晋作」

「違うっ! ただ好きなだけだ!!」

「……お縄にかかっても知らないよ」

「かからんっ!!」


やれやれ、といった様子で溜め息をつくな!
まったく失礼な奴だ!
ストーカーなんかと俺様が一緒だとっ?!

俺は、毎朝バスの隣を陣取ってるだけで、
遠くからでも近くからでもあみのことを見つめているだけで、
ただあみが好きなだけで!

これのどこがストーカーだと言うんだ小五郎の奴はっ!!




憤慨して、家に帰ってからひたすら酒を煽った。
ちょっと泣けてきた。
3ヶ月の月日を思って。

そしたら、

寝坊した。



「お前が昨日変なこと言うから会えなかっただろ!」

「だって事実だろう」

「貴重な時間を返せっ!」

「八つ当たりされる覚えはないよ」


これを機にもうやめろ、なんて言いながら小五郎は行ってしまった。

はぁぁぁ…
仕方ないだろ、惚れちまったんだから。

あみは俺を知ってるんだろうか。
いや、知らないか。
いつも隣にいるんだけどな…。



やっぱり諦めるなんて出来ない。
だから、今日も今日とて隣に立った。

「あの……」

近くで聞いたあみの声。
可愛いなこんちくしょー。


「あの……」

「…え?」

…俺?
………俺??

「いつも見掛けるのに昨日いなかったから…風邪ひいたのかなって思ったんですけど…」

「あ、いや…」

この展開なにっ?!
っていうか俺頑張れよ!
何か気のきいたこと言えよ、俺っ!!


「…いきなりすみません…」

「いや…ありがと」

「……」

「……」

続け会話ぁっ!
何を話せばいいんだっ!!


動悸と目眩が激しくなって心臓がバクバクいってる。ヤバい、俺倒れそう。
何だってこんなに可愛いんだよっ!

何も言えないままいつものバス停に停まり、いつも通りあみと反対側の歩道を歩く。


いつもと違ったのは、あみが俺に頭を下げてから、花屋に入ろうとしたこと。



「待てっ!」

車通りの少ないことが幸いして、俺の声は反対側のあみに届いた。

「俺の名前…高杉晋作っ!」

一瞬驚いた顔をしたあみは、自分も名乗った。

そして、花屋の中に入る前に、
もう一度振り返った。


「また明日っ!」

「 ! お、おうっ!!」


最後に、俺だけに向けられた笑顔。

明日もまた見られる。

お縄じゃなくて、あみの笑顔にかかっちまった俺は、意気揚々と小五郎に自慢しに向かった。











愛が呼ぶほうへ

(おい小五郎! 話したっ!!)
(何を話したんだい?)
(俺は高杉晋作って言った!)
(話したというか…なんというか…)




終幕
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