『花』小説2
□猫の恩返しC
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幸村は人の訪問があると、絶対に猫から人の姿になったりはしない。小十郎にも政宗は話をしていないし、人の姿の幸村を紹介してもいない。友達を連れ帰っても、どうせ幸村はベッドで丸くなっているのだろう。さして問題はない。そう思って、政宗は何気なく友人二人を家に招き入れた。
それがある意味、二人の関係を変えていくきっかけになる事を、今の政宗が知る由もない。
「ただいま〜」
「今日晩ご飯も食べてっていい?」
「…泊まらせねえからな、帰れよ」
「え〜〜」
「けち!」
「…」
お前らは俺の彼女かと、政宗がぼやくのに慶次と佐助が至極楽しそうに笑った。政宗が靴を脱ぎ、次いで二人もブーツやスニーカーに手をかける。政宗がリビングに入ろうとドアに手を掛けると、奥の部屋から「ぶみ〜」と何とも不細工な声がした。
政宗はその声に気を取られ気付かなかったが、佐助はいち早くその泣き声に反応をしめしていた。ブーツを脱ぐ手が止まっている。
少ししてからとてとてと小さな足音が響き、ドアの隙間から小さな黄金色の猫が滑り出てくる。政宗の足元にじゃれついて、「ぶに」と外見に反する泣き声を上げた。
「わ〜〜〜超かわいいね!!!鳴き声からしてどんな猫が出てくるのかと思ったけど」
「俺も最初そう思った。鳴き声が酷いんだ、こいつ」
慶次が廊下にあがり、足元に座る、ちんまりとした猫に手を伸ばす。大人しく撫でられていた幸村だったが、もう一人、佐助が廊下に上がった事でビクリと大げさな反応を返した。玄関を見つめて、目を見開いた(ように見える)。そして間髪入れず、幸村は早足で奥へ引っ込んでしまった。
「あ〜あ、いっちゃった。猫ちゃん」
慶次がしょぼんと項垂れ、政宗は大して気に留めなかった。幸村は意外に照れ屋で、知らない人間がいると物陰に隠れたりするからだ。リビングに入った二人の後から佐助がやや遅れて入ってきて、いつもの調子、へらへらとした表情で政宗の肩を突いた。
「…ねえ、あの猫」
「Ah、なんだよ」
「ペットショップで買ったの?」
「いや、拾った」
「へ〜…」
可愛いね。そう言って笑う。それが愛想笑いだと分かっても、政宗は何も言わなかった。佐助は動物と言うより「動物に興味を示した彼自身」にしか興味を持っていないと知っていたから。
結局、二人は夕飯を食べ終えてすぐに家を出た。