『花』小説2

□ありふれた人生E
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俺は転校生が「真田幸村」だと言う事を知っていた。

俺は真田幸村が「真田幸村」では無いという事も、知っていた。

…全部、分かってたんだ。



「落ち着いた…?佐助」

「…うん」



階段に二人して蹲って、俺は懐に佐助を抱き込んでいた。固い生地の制服の上着じゃなくて、薄くてもカーディガンを着ていた事を俺はほんの少し喜んだ。佐助が顔を胸に押しつけてきても、彼の頬は痛くも無く心地良いだろうから。

屋上からわいわい、騒がしい声が聞こえる。多分、政宗と元親辺りが幸村を挟んで騒いでいるんだろうと思う。

あいつらには、ついさっき「彼が真田幸村ではない」事を伝えていた。

知らないのは佐助「だけ」だった。



「…上、行く?別のとこ行く?俺付き合うよ」

「……いい。行く」

「そっか」



離れて立ちあがった佐助に、胸元にすうと冷たい空気が流れる。胸元は涙で濡れていなかったけれど、きっと佐助は泣きたかったんだろうと思う。

…これは悲しい願いなのかもしれない。俺は佐助の涙が見たかった。






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