『花』小説2
□ありふれた人生E
2ページ/4ページ
俺は転校生が「真田幸村」だと言う事を知っていた。
俺は真田幸村が「真田幸村」では無いという事も、知っていた。
…全部、分かってたんだ。
「落ち着いた…?佐助」
「…うん」
階段に二人して蹲って、俺は懐に佐助を抱き込んでいた。固い生地の制服の上着じゃなくて、薄くてもカーディガンを着ていた事を俺はほんの少し喜んだ。佐助が顔を胸に押しつけてきても、彼の頬は痛くも無く心地良いだろうから。
屋上からわいわい、騒がしい声が聞こえる。多分、政宗と元親辺りが幸村を挟んで騒いでいるんだろうと思う。
あいつらには、ついさっき「彼が真田幸村ではない」事を伝えていた。
知らないのは佐助「だけ」だった。
「…上、行く?別のとこ行く?俺付き合うよ」
「……いい。行く」
「そっか」
離れて立ちあがった佐助に、胸元にすうと冷たい空気が流れる。胸元は涙で濡れていなかったけれど、きっと佐助は泣きたかったんだろうと思う。
…これは悲しい願いなのかもしれない。俺は佐助の涙が見たかった。