『花』小説2
□ありふれた人生I
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「お主は本当に忍か?」
高い杉の木の根本、弁丸が仁王立ちしてから満面の笑みで笑う。
「…幸村様に見つけられるのは、忍として本当に恥ずかし」
「何だと!お前、主に向かって何という口の利き方だ」
弁丸の前には、何故か正座させられた鴉…佐助がいた。
今がどういった状況なのかと言えば、十勇士を森に放っての気配を辿る訓練…所謂「隠れん坊」と名を付けてもいいお遊びの真っ最中である。否、お遊びとは言え彼等は真剣そのものだったが。
「は〜〜〜〜長としての面目が立たない…はああ…」
佐助が頭を抱えて盛大に溜息を吐いた。遊びが始まって一刻も経たないうちに佐助は幸村に見つかってしまったのである。
「観念しろ佐助。主の目は欺けないのだ」
「…とかって、まだ他のだあれも見つけてませんけどね」
「ぐ…!」
「つかむしろそれが問題だろ〜〜何でいつも俺様が見つけられちゃうんですかねえ」
がっくりと肩を落とす佐助に、弁丸が我慢する事もせず声を立てて笑う。
忍と主。そこには張りつめられた糸のような、緊張感や静けさがある筈であったのに、二人にはそんな危うい関係性など気付かれては居らず。間接的なものではなく、むしろ手と手をしっかりと握り締めているような…、
「佐助が一番最初に見つかったのだから、某の言うことを聞くのはお主であるな!」
「はあ…はいはい、何でも主様の言う通りにいたしますよ…っと、」
二人を見下ろした九羽の鴉達だけが、彼等の絆の深さを知っていた。