『花』小説2

□ありふれた人生H
4ページ/4ページ







「佐助!」



不意に、静かな場には似つかわしくない明るく華やかな声がした。はっとして視線を上げると、走り寄ってくるこれまた華やかな男が目に入る。

慶次だ。



「…あ、慶次」



佐助がほっとしたような顔になり、幸村は何故かまた「ちり」心が軋むような音を聞いた。



「佐助、今日今から政宗が飯奢ってくれるって」

「マジ?」

「何か、いらないパーティーに呼ばれたから、それを断る口実だって」

「何それ」



肩を竦めて笑う慶次に、苦笑する佐助。

(…慶次殿は、見るのに。笑うのに、あんな風に自然に…)

慶次と佐助は、いまの仲間が集まる前からの親しい友達だと聞いた。親友であるらしい。



「幸村は行く?」

「…いえ、某はまだ部活がありますので」

「そう?まあまた今度一緒に飯食べに行こうよ」

「慶次の奢り?」

「えっ、政宗じゃないんだから、割り勘で!」

「ケチ」

「はあ〜?ちょっとは遠慮しろってー!」



親友であるから、とりわけ仲が良い。…それは分かっている。

…けれど、彼の視線が自分に向かず、他の誰かに向けられているのに酷く形容しがたい「違和感」があった。

「あれ」は俺だけに向けられているものではなかったのか?



「…え、…あ、××…?」



慶次とその場から去ろうとする佐助の手を、幸村は無意識に掴んでしまっていた。驚く佐助に意識が急速に浮上し、慌てて手を振りほどく。



「…失礼しました。…では、某はこれで」



ちり、心臓が軋むような音がする。

しかしそれがどうしてなのか、その違和感の正体は、この居心地の悪さはなんなのか。

幸村はどうしてもぶれる太刀筋を回復することができず、思考の修正を図ることもできなかった。





それからぱたり、橙色の猫は道場へ訪れる事が無くなってしまった。


おしまい
To be continue

前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ