『花』小説2
□ありふれた人生H
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「慶次殿と、××殿は、ずいぶんと仲が宜しいのですね」
昼休憩、屋上に集まっていた面子の一人、幸村がぽつりと呟いた。隣に座っていた政宗が、煙草を吹かしながら(予め伝えておくと、彼は未だ未成年の少年である)片眼を細めて幸村を見つめた。彼の視線は、手元の弁当ではなく、正面に座る元就でも無く、少し離れた所で何故かバレーボールをしていた佐助と慶次に注がれている。
慶次がどこからかバレーボールを取り出し、勢いづいた元親がそれを放り投げ、屋上から落ちそうなそれを佐助が慌ててキャッチした。それから、まるで乱闘の様にボール遊びが続いているという訳である。
「…気になるのか、」
「いえ…あなた方は仲が良いのは存じています。ただ、あの二人が…殊更仲がいいのだなと、ふと思っただけで」
幸村が政宗に視線を戻し、ふわりと柔らかい微笑を浮かべる。政宗はぞんざいな返事を返したが、内心ではその笑顔に“違和感”を覚えていた。
“あの男”は、こんな穏やかな笑顔を他所に向ける男ではなかった。
(平和惚けしやがって…腑抜けはつまらない、)
政宗には遠い記憶が「残っている」。彼の笑顔と同じく、引っかかった違和感は一つだけではなかった。
「Hum…つか最近地味に気になってること聞いていいか?」
「はい、何でしょう」
「お前、佐助の事は××って呼ぶのな」
「……、」
動かしていた箸が、ぴたりと止まる。
政宗が最も気になっているのは、幸村にとっての佐助だった。幸村はまるで彼を「区別」するかのように違う名前で呼ぶ。…否、それは今でいう本当の名前。本当がどこにあるのかはともかくとして、幸村の中で佐助が「特別」であることは確かだった。
視線を弁当に落としている幸村は、図星というより、少し戸惑っている風にも見える。
「…某にも…分からないのです、彼を…“佐助”と呼ぶ事に…どうしてか、」