『花』小説2
□ありふれた人生G
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「おはよう、佐助」
助けて欲しい。寝苦しい夜を乗り越え、学校をサボる選択肢を捨てて登校してみれば、いつもと全く変わらぬ「彼」の姿があった。
「お…はよう」
「佐助、またよく寝られなかっただろ。そんな夜は俺を呼べって、言わなかったかい?」
「…はあ、」
軽口を叩いて肩を抱かれ、何でも無い風に教室へと連行される。
(…やっぱり巫山戯ていたんだろうか、)
あまりに「いつも」と変わらない彼…慶次に、佐助はうっかり思考を放棄しかけたが、すぐにあの告白を思い返して押し黙る。
遅刻ギリギリの廊下をいやにゆっくり歩きながら、佐助はこの状況を打破するきっかけを探していた。
…あの目に、見られたくなかった。
「俺さ、我慢しない事にしたんだ」
佐助が居心地悪そうに固くなっているのに、あっけらかんとした顔で慶次が言葉を投げた。佐助が意識を浮上させて慶次の方に視線を寄越すと、まっすぐに前を見つめる彼の視線が目に入る。
まっすぐに前を見る、あの視線。…同じだと思っていたけれど、彼の瞳は青空に似て良く澄んでいるようにも思えた。
「…何を、」
「え?佐助を」
「は?」
「俺、好きって言っただろ?佐助のこと」
「…」
無かった事になった訳ではなかったのか、佐助が再度押し黙ると、慶次が声を立てて明るく笑う。
「佐助が幸村のことずっと想ってるのは知ってる。これからも想い続けるだろうって事も分かってる。…でも、我慢するのは止めたんだ」
慶次が笑いながら、満面の笑みで…でも真っ直ぐな目で佐助を見る。
…この目は。佐助がどんなに想っても、願っても“彼”に向けることができなかったもの。
「俺は佐助が好き。ずっと、…ずっと前から」
俺は“これ”がチャンスだと、そう思ったんだよ。
…俺はそれに答える事ができない。
応えることもできない。
……筈だった。
おしまい
To be continue