『花』小説2

□ありふれた人生G
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お気に入りのメロンパンを囓ってみる。



「…なんも味しねえ…」



何故か不本意に口の水分を奪われ、もさもさと乾いた口内に佐助は理不尽な悪態を吐いた。

お気に入りのメロンパンを片手に、お気に入りの橋の上での夕暮れ時である。

(……明日からどう顔を合わせればいいって?)

手摺りに体重をかけ、川を見下ろして盛大な溜息を吐く。

つい先刻。佐助は同級生の…慶次から「告白」なるものを受けた。



『俺と、付き合ってよ』



何でも無い風に投げかけられた言葉。それはまるで彼そのもののような、春の残り香を運んでくるような柔らかさで佐助の耳に届いた。

佐助があまりにも想い人をストーカーのようにつけ回しているものだから、慶次が面白がり、巫山戯てそう言ったのだろうと。佐助は若干呆れた容姿で彼に視線を投げた。

…彼と、視線を合わせた事をその時ほど後悔した事は無い。



「あー……遊びが大好きならさあ…最後まで遊んでてよ頼むから」



味のないメロンパンを口に押し込んで、半ば自棄になって咀嚼する。

噛み砕いているのはパサパサのパンでは無く、彼の―――かもしれない。

ふとそう思い至って、咀嚼するパンは何故か塩味の聞いたフランスパンのような食感になってしまった。

(…答えられるわけない。応えられる筈もないんだ)

あの時の“彼”と同じように。



「…もう………助けてくれよ」



もうすぐ日が暮れる。鉛のように重たい足はそこからしばらく動くこともできず。

知らなかったんだ。…否、気付いてはいけなかった事だった。

彼が…慶次が、自分と…佐助と。

…同じ感情を抱いていたこと何て。







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