『花』小説2
□ありふれた人生F
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「さーすけ。なにやってんの?」
放課後、道場の入り口で立ち惚けている佐助を慶次は発見した。
「…ぶかつけんがく」
「そんな事言って、幸村見学の間違いでしょ〜?」
「うるさいな、部活の邪魔だよアンタ」
「わー…俺理不尽って言ってもいい?」
佐助は全く慶次に視線を寄越さず、一点に視線を注いだまま動かない。問うまでもないのだ。佐助は、ずっと、昔も今も…きっとこれからも。“彼”しかその瞳に映さないのだろうから。
「…何か不思議な気分だよね」
竹刀が打ち合う小気味の良い音が響いている。しばらく稽古を見ていた佐助は、慶次に問い掛けているのか、独り言なのか分からない声音でぽつりと呟いた。
「あんなにも届かないお人だったのに。声すら、簡単にはかけられない人だったのに。挨拶を気軽に交わして、一緒にお昼とかつついちゃって、放課後はこうやって誰の許可を得るでもなく自由に観察できちゃったりして」
どこか諦めた風に言う佐助は、現状を快く思っていない風に見える。
(…あれは“真田幸村”だよ。佐助)
その横顔を見ながら、慶次すら諦めた風な容姿で思った。
佐助にしか“彼”が分からないように、慶次にも分かってしまうのだ。
想い人が想うあの人が、“彼”でない何てことある筈が無いと。
「ねえ、佐助」
報われない想いが絡み合って、出口の無い感情回路が悲鳴を上げている。
慶次は“きっかけ”を、作ってみようと思っていた。
「俺と、付き合ってよ」
おしまい
To be continue