『花』小説2
□僕が君の手を
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あの人俺の事どう思ってんだろ?今何してんのかな?
ちゃんと飯食ってんのかなあ。
…何て。いつも考えるのは、君の事だよ。
Episode3…不安を消したかったからで、
暇があれば文を書く。それは最早癖のようなものであった。
「前田の旦那はまめだね。恋文?それ」
縁側に寝そべって字を書いていると、屋根からぶら下がる鴉が一匹。ぶら下がると表現するなら、蝙蝠の方があっているかもしれない。
派手な髪色をした蝙蝠…佐助は、慶次が笑って「うん」と返事をしたのに反応して飛び降りた。慶次の隣に腰を下ろす。
「そんなに書いて、一体誰に渡してるのさ」
「片眼で目つきの悪い、奥州のえらいひと」
「うげ…前田の旦那、前から思ってたけど趣味が悪いよ」
「酷いなあ〜あれでも、可愛いところあるんだよ」
慶次が思い出した風に笑い、佐助が若干引いたような顔をする。佐助は優秀な忍だとここの主、幸村は胸を張っていた。けれども、佐助には忍独特の陰険さは感じ取れない…と慶次は思っている。だから余計、こうして話し相手になってもらうのかもしれない。
「…俺様は、あの人嫌いだよ」
この、さっぱりと断言する竹を割ったような性格も気に入っている。信玄や幸村に、堂々意見を言う忍もこのご時世珍しいのではないのか。
そしてそれが、ただの独りよがりではなく、的を射た返答が返ってくるのも面白かった(慶次曰わく)。
「どうして?」
「上から目線だし、見下してるし、目つき悪いし」
「あはは!だから、それは見た目だけだって」
「それに、あの…何を思ってんのか分からない…、読めない男だから嫌い」
「情報くれないからか」
「ま、簡単に言えば、そういう事」
肩を竦め佐助が言い、お茶を持ってくると言って掻き消える。
慶次は佐助の台詞を復唱して、再度文に目を落とした。佐助が政宗を嫌っている事も知っているし、また、政宗が佐助を嫌っている事も知っている。
本人達からすれば不本意かもしれないが、あれは「同族嫌悪」だろうと慶次は勝手に納得していた。体面はともかく、お互いの心の内を読ませない、読ませたくない。それを派手な行動や言動でやり過ごす。
「…ほんと、素直じゃない二人組だよね」
くすくす笑って、文の続きを書く。
似た者同士の佐助の側にいると思い出す事があった。心の内を明かしたくない彼が、今どうして、何を考えて生活をしているのかと言うこと。
(佐助と一緒にいるからって、不安になる事なんてないのに)
慶次は自嘲的に嗤って「会いたい」そう書いた文を静かにくしゃり、握り締めた。