『花』小説2
□僕が君の手を
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嫉妬心とか独占欲とか。どう伝えれば良いのか、伝えなくても良いのか。
ただ、この指先に触れた体温が彼であればいい。
そう、らしくなく思った。
Episode2…誰にも渡したくなかったからで、
「行くのか」
「うん。そろそろ甲斐のおっさんにも挨拶しなきゃなあって」
慶次は笑顔を絶やさない男だった。政宗と慶次は今まさに「別れよう」としているのに、お互い、何の感情のぶれもなく穏やかに佇んでいる。…否、それは相手が慶次だからこそすれ。
政宗に彼との別れを惜しむ気持ちは砂浜に侍る砂ほども存在してはいなかった。
「俺に会えなくて寂しい?」
「No problem. お前がいなくなって寂しがるのはあいつらだ」
「え?あ、みんな」
政宗が背後を指し、慶次がその後を見て笑う。慶次はとにかく明るかったし、人懐こかった。それ故に慕われる事も多く、伊達軍の兵士達もその例外では無い。
「うおお前田の兄貴いい次はいつ来るんすかあ」
「俺達また一緒に酒が飲みたいっすー!」
「街遊び連れてってくださいよう」
「あにきー!」
彼等はとにかく感情が豊かだった。男の涙なんてむさ苦しいだけ。政宗は呆れ返って溜息を吐いたが、慶次は至極嬉しそうに顔を緩ませただけ。
この男はそういう男だった。例え体面にあるのが涙だったとしても、そこに少しでも「楽」や「喜」の感情があれば逃すことなくそれを掬う。
「また来るよ。次はそうだな…政宗が寂しいって、文が届いたら来ようかな」
「Fuck!二度と来なくていい」
吐き捨てれば、やはり慶次は笑った。
縋る兵士達を持ち場に戻し、馬に跨る慶次を見上げる。
「…文、書くよ」
「いらねっつってんだろ」
「またまた〜。じゃ、次に会う時まで元気でね」
馬上から手を伸ばされ、政宗はそれをしっかりと握り返した。
まるで風のような男は、この掌を離そうが離すまいが、政宗のところから不意に掻き消えてしまう事が必然だった。